第26章 ふたつの半月
やり場の無くなったこの想い。
抱えているのはもうツラい。
どこかに捨ててしまえるものならそうしたい。
だけどそんな事…
簡単には出来なくて。
ダメだ。
この後、宇髄さんのお屋敷まで
昨日の重箱を取りに行かなきゃいけないのに。
海龍の顔が見られなかったというだけで
こんなにも気分が沈むなんて…
それでなくても、
私は感情が顔に出やすいらしいから、
どうにか気分を変えないと。
何かあったのか、なんて訊かれたら、
うまくごまかす自信はない。
私はきれいに晴れた空を見上げて
大きく息を吸い込んだ。
泣き出してしまいたい私の気分を
一掃してくれる春の風が、
私の背中を押すように吹き抜けて行く。
…うん、そうだね。
ちゃんと、…するよ。
勝手に励まされた気になって
私はぐんと背筋を伸ばした。
「ごめん、ください…」
カラリとガラス戸を開け、小さく呼びかけてみる。
1度お邪魔しているとはいえ、
やっぱりちょっと緊張するな…
シンとした家の中…
…どうしたものか…
もっと大声で呼ぶ?
そう悩んでいた時、
パチン、
という軽い音がどこかから聞こえてきた。
…何の音だろう。
耳をすましていると、
もう1度、パチンと言う音。
…外から聞こえる気がする。
私はガラス戸をきっちり閉めて、
音のする方へと向かって行った。
そこは庭への入り口。
背の低い庭門に手を掛けて押し開ける。
昨日、廊下から部屋越しに見た広い庭が
目の前いっぱいに広がっていた。
手入れの行き届いた庭。
庭木がいっぱい生い茂り、
色んなお花が咲き乱れている。
その中に、見知った大きな影をみつけた。
持ち手の大きな剪定ばさみをもち、
低木の手入れをしているようだ。
無骨な手が器用に動いて
伸びた枝だけを丁寧に切って行く。
パチン、
と、音を立てていたのはあのはさみだ。
何をしていても絵になるひと…
そう思って、つい見入っていると
視線を感じたのだろう、宇髄さんは
切った枝を手にしたまま
ふとこちらを向いた。
「…睦?」
それ以上ないくらい目を見開いて
本当に私がいるのかどうかを
見極めている宇髄さんがおもしろくて
「こんにちは」
私はつい笑ってしまう。
「来てたのか。悪ィな気づかなくて」
宇髄さんは言いながら私を手招きをする。