第26章 ふたつの半月
え…?
これじゃ結局、お金を
持ち帰らなきゃならなくなるじゃない!
待ってよ、
じゃあ、やっぱり上がって行かなきゃならないの?
でも欲しいのは
身体じゃなくて時間だって言ってたし…
余計なコトを考えなくても大丈夫?
ん?でも『今日欲しいのは』って言った?
明日は身体が欲しくなるかもってこと?
いやいや、
そんな事より何を話せばいいのよ…
知らない人と楽しくお話しできるほど、
私は出来た人間じゃない…
でも…、
来るなら来な、と言われた。
来られるものなら来てみろよ、と
言われたような気になって
何となくムキになった私は
下駄を揃えてぬいでいた。
よくよく考えたら、…
うまいこと乗せられただけなのに…。
恐る恐る、廊下を進む。
部屋数が多すぎて、
あのお客さんがどこにいるのか
全然わからなかった。
シンと静まりかえっているのに、
淋しさや怖さは全然感じない。
あたたかい陽の光が差し込んで
優しい印象だけだった。
開け放たれたそれぞれの部屋の襖。
空気の入れ替えでもしているのか
どの部屋からも庭が見える状態。
すべてが筒抜けだ。
廊下を進む度に見える室内は
どの部屋も洗練されていて過ごしやすそう。
それなのに、
端から3つ目の部屋だけは、
見事に空っぽだった…
私は思わず立ち止まり、
その部屋をまじまじと観察してしまう。
「……」
何の部屋なんだろう…
そう考えたとき、
目の端で何かが動いたような気がして
私は前方に顔を向けた。
するとそこの次の部屋から
さっきのお客さんが顔だけ覗かせて
こいこいと手招きしているではないか。
私は空っぽの部屋に気持ちを残しながらも、
その人に手招かれるまま、歩を進めた。
招かれるまま、部屋の入り口まで来ると、
目の前に広がるのは
大きなテーブルに所狭しと並べられた
食べ物の数々だ。
私が持ってきたお重の他に、
たくさんの水菓子が用意されている。
私の好きな、干菓子も…
「ココに座んな」
テーブルに見入ったまま
動かなくなった私を待ちきれなくなったのだろう。
その人は更に手招いて
テーブルを挟んだ自分の向かいに私を呼んだ。