第26章 ふたつの半月
「一緒にいてもらって、
もし俺が楽しめたらあんたのモン。
それだけの働きをしたってコトになるだろ?
その代わり俺が楽しめなかったら
その金は喜んでひっこめる。
あんたに払う価値はねぇってコトで」
…そんな賭けみたいな話しあります?
だいたい私、時間あるなんて言ってないのに…。
「……なんだ、ホントに時間ねぇのか」
ちょっと気落ちしたような声を聞いて、
「いえ、時間がないわけではありません…でも」
つい本当の事を言ってしまった。
大きな人がシュンとすると
輪をかけて可哀想にみえてしまうから困りもの。
だからと言ってだ…
「そのご提案に乗ることも…できません」
「…それは、どうして」
そう訊いてきた彼の目は、
好奇心に満ちていて
私がどんな返事をしても許してもらえそうな気がした。
「……大変失礼ですが、
お客様はこのお屋敷におひとりで?」
「んー…1人だったりそうじゃなかったり」
「……はい?」
「だが今日は俺1人だ。
客が来るはずだったからな…フイになったが」
「…そうなのですね」
少し俯いた私に、
きゅっと首をひねった彼は
「あーあ!警戒してくれてるワケだ」
一転、納得したように何度も頷いた。
…警戒、してクレテル…?
その言い回しに激しい違和感を覚えた。
まるで、警戒された事を喜んでいるかのよう。
だけど…まったくその通りだった。
ひとり暮らしの、
しかもよく知りもしない男の家に、
単身乗り込んでいくバカな女がどこにいるだろう。
身なりはきちんとしているし、
こんな豪邸に住んでいて
話した感じも悪くない。
ただ、人は見た目ではない、と
ついさっきここへ来て学んだばかりだ。
「俺のこと、そういう目で見てんの?」
さっきよりも一層にっこにこになり、
俯いた私を覗き込む。
…何でこんなに嬉しそうなの?
よくわからない…。
「……自意識過剰だとお思いですか?」
「いーや、賢明だ」
彼は満足そうに笑い、
スッと立ち上がった。
「だが、俺が今日欲しいのは
あんたの身体じゃなく時間だ。
安心していい。まぁ…来るなら来な」
そう言い置いて、
自分はさっさと奥へと下がってしまう。