第26章 ふたつの半月
「あんたの時間をその金で買う、ってのはどうだ」
「はい…!は…い?」
打開策を提案されたと思い、
勢い込んで返事をしてしまったが、
…噛み砕いてみたら
何を言われたんだかよくわからなくて…。
「この後の予定は?」
「予定?…」
たまにはお買い物でもしておいで…
おばちゃんの言葉が蘇る。
買い物…
「特に…」
あ、
「いえ、あの…どういう意味ですか?」
安易に頷いてはいけないような気がして
私は詳しく訊いてみる。
「本当ならなぁ…」
身体をこちらに向けてゆったり歩いてくると
私と目線の高さを合わせるように
膝を折ってしゃがんだ。
「昔馴染みが来て
こいつを一緒に愉しむはずだったんだ。
だが野暮用で来られなくなっちまったのよ」
そう話す彼は
何だかとっても淋しそう…。
「こんだけ豪華なものを作ってもらって
1人でつつくのも味気ねぇだろ?」
きれいな瞳を弓なりに細めた。
……ん?
「…そう、ですね?」
「そうなんだよ。で、都合のいいことに
あんたは時間を持て余してる。
しかもその代金分をどうにかしてぇときてる」
ニッと笑って、もっともらしい事を言うが、
……んん?
「私は別に時間を持て余してはいません」
「そうか?俺が予定を聞いたら、
特に、と答えたろ」
聞かれていたか…。
「でもこの代金は、
お客様が納めて下さればいいだけです」
「俺はもう支払ったんだ。
それを突っ返すなんて、…俺に恥かかす気か?」
「そんな…とんでもございません!」
思ってもいない言いがかりをつけられて
私は大いに慌ててしまった。
「でも、あんたもその金をどうすりゃいいのか
わからねぇんだろ?なら、
俺の要望に応えりゃいいんじゃねぇのか?」
「…でも、時間を買うだなんて
そんな価値の測れないものを…」
私が言い淀んでいると、
顎に手を当て天井を見上げて
うーんと唸り、
「わかった!」
ぱちっと自分の膝を叩いて見せる。
「なら、俺が楽しかったかそうでなかったかで、
その金をどうするかを決めようぜ」
「楽しかったか…?」
怪訝な目を向けてしまった私に
その人は尚もニコリと笑顔を向けた。