第26章 ふたつの半月
「…左様、でしたか。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて、
私は1歩下がった。
「本日はありがとうございました。
空のお重は、また明日取りに伺います」
「あぁ、急な注文を受けてくれてありがとな」
…ありがとな…
そんな何気ない言葉がひどく胸に刺さった。
…不思議な人だ。
私はもう1度
頭を下げて、外に出た。
元来た、門までの長い道を歩きながら
気になるのはただひとつ…。
我慢できずに、
…失礼だと知りながらも
こそっと袱紗を開いてみた。
すると現れる、
50銭券の束。
「……ひ‼︎」
声にならない悲鳴を上げて
私は再び玄関へと走った。
「お客様‼︎」
勢いよく戸を開きそこへ飛び込むと、
その人はさっきのお重を片手に
部屋の奥へと入っていく所だった。
目を見張り、顔だけこちらに向けたその人は
何事かとそこに固まった。
「いくら何でもこんなに戴けません!」
震える両手で
多少くしゃくしゃになった袱紗を中身ごと、
めいっぱい差し出した。
しばらく、
その袱紗と私の顔を交互に見ていたその人が
「……イロ付けといたって言ったろ」
何でもない事のように言う…
「付けすぎです!」
私が意気込んで言うと、
さも可笑しそうに笑い出した。
「こっそり自分の懐にいれとけば?」
くくっと喉を鳴らし
冗談か本気かわからない言い方をする。
「そんな事しません!」
「わかってる」
「えぇ?わかってる…?」
「わかってるよ。
そんな人間じゃねぇ事くらい見りゃわかる」
「それは……どうも…。
いやでもコレ、…私が怒られちゃいます!」
こんなものを持って帰ったら
おじちゃんとおばちゃんがなんて言うか!
「…だが俺だって、
1度渡した物を引き取るつもりはねぇ」
「そんな…困ります…!」
私は式台のすぐそばまで歩み寄って
お金を返そうと差し出した。
でもその人は言葉通り、
そのお金を引き取る気はないらしかった。
冷たい目で袱紗を見やり何かを考え込んでいる。
でも、
何と言われようと
私だって引き下がるつもりはない。
「じゃあ…」
その人が、何かを思い付いたような声を上げた。
私はそれに希望の光を…見出したい。