第26章 ふたつの半月
つい持たされた包みに目をやった。
「おばちゃん!これお重じゃないの!」
そう、およそお弁当ではない。
お重だ。
しかも3段。
「そうなんだよ。ね?すぐには出来ないでしょ?」
「出来ないでしょ?じゃないよ!
こんなの、やってないでしょう?
おじちゃんどうして受けたりしたの⁉︎」
1人にこんな事をしたら
次々に注文が来るかもしれない。
みんなにこんな事してはいられないはずなのに。
「あんまり丁寧に頼んでくるからよ、
仕方ねぇなぁと思ってな?」
おじちゃんは頭を掻き掻き、
調理場から顔を出す。
「仕方なくないよ!
こんなのはどこかの料亭のお仕事です!」
ぷんすか怒る私に、
「料亭がこんなの持ち帰らせるわけないよ」
おじちゃんもタジタジだ。
「そんな事はいいの!
前は同じような注文を断ってたじゃない」
「そうだよ。そうなんだけどなぁ…
えらくでかい図体をあんなに小さくしてよ、
頭下げられちゃ、応えてやりたくもなるって」
「人を見て注文受けたり受けなかったりが
1番悪いでしょ」
私のひと言に、おじちゃんこそ身を縮めて
「面目ない…」
笑ってごまかした。
「睦ちゃん、もう許して。
私が受けちゃったんだよ、ごめんね」
2人に謝られてしまい、
私ももう何も言えなくなった。
勢いで、偉そうな事を言いすぎたような気がする…
「ううん…私こそ、ごめんなさい。
そうだよね…。
2人のそういう優しいところ、大好きだよ」
私が告げると2人は
いつもの優しい表情に戻っていた。
「じゃあ、行ってくるね!」
「重たいのに悪いよ。でも、
それ届け終えたら、
今日はもうそのまま終わってね?」
「え?でもまだ…」
「いいんだよ、2回も配達させて…
疲れちゃうだろ?
こっちは大丈夫だから、
たまにはゆっくり買い物でも楽しんでおいで?」
おばちゃんはにこにこ笑いながら
私の背中を押した。
「ほんとにいいの?」
顔だけ振り返って訊くと、
「あぁ、仕事ばっかりさせて悪いなぁ。
そのお重のお代は
そのまま睦にやるから
買い物の足しにでもしておいで」
おじちゃんまでがそんな事を言って笑う。