第26章 ふたつの半月
「お弁当を、届けるの?」
「そうなのよ。どうしてもって
その方が仰ってね…」
「そう…私に行ける場所ならいいけど」
「そんなに遠くはないのよ?
でも…帰って来たばかりで悪いねぇ」
「それはいいの」
おばちゃんに行かせるわけにはいかないもの。
「ただ…」
「ん?」
不思議な事がひとつ。
「その人、ここへ来たのよね?」
「そうよ。睦ちゃんが
海龍くんの所に行っている間にね」
「なら、わざわざ届けなくても
持って帰れたんじゃないの?」
それが1番早いと思うんだけど…
もっともな疑問だと思う。
海龍のように
毎日のことであれば、話はわかる。
弁当の種類はこちらにお任せ、
決まった時間に決まった量を届けると
注文を受けていて
本人が店にくるわけではないのだから。
でもその人は不思議なことに
店まで注文をしに自分で来て、
それなのにわざわざ届けろと言うのだ。
持って帰れたでしょうに…
…どういうこと?
「あぁ、ちょっと変わった注文でね、
すぐには出来なかったのよ。
ちょっと待ってもらうように言ったんだけど
急ぎの用があるとかで
後で届けて欲しいって言われてね」
「へぇ…そうなんだ…」
納得できたような、
できないような…。
まぁ、持って来いと言うのなら。
「持って行くよ」
おばちゃんに落ち度はないので
私はにこりと笑ってみせた。
「悪いねぇ、突然…」
「ううん、大切なお客様だからね!」
「ありがとう、助かるよ」
おばちゃんはにこっと笑いながら
少しだけ背中を反らした。
疲れているときの仕種だ。
「いいの、もう持って行ける?」
「そうそう、もう出来てるの。
時間も頃合いだし、
睦ちゃんが大丈夫なら
お願いしてもいいかい?」
「うん、いいよ。すぐ行ってくる」
「ありがとうね。住所、書いてもらったから…」
おばちゃんは私に
小さな紙切れをくれた。
私はそれを受け取り確認する。
きれいな字で書かれた住所の他に、
細かく地図まで書いてくれてあった。
「…わかりやす…」
その地図に見入り、思わず独り言ちながら
おばちゃんからお弁当の包みを受け取った…
「重たっ‼︎」
ずしっと右手にかかる重み。