第26章 ふたつの半月
「そうだな、本当にそう思うよ」
あぁ…
「じゃ、コレ」
そう言って、
お金を握った手をこちらに差し出す海龍。
これを受け取ったら、
私は帰らなくちゃならない。
「弁当のお代」
うけとりたくない。
まだこうして、
お話していたい…。
「睦?」
いつまでも手を出さない私を
海龍は不思議そうに覗き込んだ。
「あぁ…ごめん…」
「睦、大丈夫?」
あ、ダメね、こんな事してちゃ。
「うん!大丈夫!明日のお弁当は
何にしようか考えちゃって…」
「そう?ならいいけど…。本当にいいのか?
毎日こんな事させて、何だか申し訳ないけど…」
海龍が困ったように言った。
「いいの!したくてしてるんだから…
これくらいさせてほしい」
そう。
したくてしてるんだ。
私のワガママだよ。
お願いだから、海龍との時間を取り上げないで…。
だから私は、
「睦がいいなら…助かるけど」
海龍がそう言ってくれて、
心からホッとした。
1分でもいい。
こうやって、顔を見て、お話ができるなら。
「明日も楽しみにしてるよ」
そう言って笑った海龍に、
「うん」
と、ひとつ頷いた。
明日までがあまりにも遠い。
そう考えていた私は、
閉じられてしまった戸の前で、
しばらく動けずにいた。
「睦ちゃん、お帰り!ご苦労様」
お店に戻ると
おばちゃんが労ってくれる。
「ただいま!遅くなってごめんね」
私もお店を手伝おうと
エプロンを手にした時、
「あ、待って睦ちゃん」
おばちゃんに止められてしまった。
何事かと顔を上げると
「今日はもう1件、頼めるかしら?」
両手を合わせるおばちゃん。
「もう1件?」
私は驚いた。
ここは私の実家。
お弁当屋さんを営むおじちゃんとおばちゃんの
お手伝いを毎日している。
作るのはおじちゃん、
詰めるのはおばちゃん、
売り子は私だ。
ただこのごろ、幼馴染の海龍が、
お弁当を家まで届けて欲しいと言ってきた。
幼い頃から仲良しという事で
おじちゃんが許してくれたので
私が届ける事になったのだ。
ただ、それだけ。
うちのお店で配達をしているわけではない。
それなのに…。