第25章 時間を超えて。
俺は慌てて、両腕でその小さな身体を受け止める。
小さな割に
結構な衝撃と共に飛び込んで来た睦は
「ごめんなさい、迷子になっちゃった!」
顔をうずめたまま、
楽しそうにあははと笑った。
…およそ謝る態度ではない。
なのに、
あまりの屈託のなさに怒れないし憎めない。
不死川は驚嘆の目で睦を眺めていた。
…正しい反応だと思う。
「うぅ…もう会えないかと思った…」
その腕を力いっぱいしがみつかせ、
睦は泣きそうな声で言った。
「睦、?」
少しだけ心配になり名を呼ぶと
へへっと笑って
「大丈夫だよ…?でも
もうちょっとだけこうしててもいい?」
とてもじゃないが
『大丈夫』とは程遠い、震えた声を上げる。
だから俺は、
その姿を隠すくらいの勢いで
睦の身体を抱きこんでやった。
そんな事をしているうちに、
睦を追ってゆっくりと辿り着いた煉獄は
「無事出会えてよかった!」
俺にうずもれている睦の背中を
満足そうな笑顔で見つめた。
その煉獄の声が聞こえた途端、
ぱっと顔を上げた睦が
「そうなの!助けてくれたんだ」
俺を見つめながら、煉獄を指差した。
「そうか。…お前、人を指さすな」
やんわりとやめさせると
「ごめんなさい」
素直に謝ってから
「だってね、あっちの店のクソ親父がさ?」
興奮しながら堰を切ったように話し出した。
つうか…なに?…クソ親父?
「私のことだまくらかそうとしたんだよ⁉︎
天元ちに帰りたいのにスマホもないし
どうしたらいいかわかんなくて困ってんのに
親切な顔して近づいてウリさせようとしたんだよ!
あり得なくない⁉︎私が何も知らないと思って!
超ムカつく!
私ってそんなカンタンそうに見える⁉︎
見えるわけないよね、髪真っ黒いし
めっちゃ真面目そうだもんね⁉︎」
「「「………」」」
普段の睦じゃあ見られないような剣幕に
男3人呆然だ。
事情を知らない不死川と煉獄はもっとだろう。
そんなものお構いなしに
ぷんぷん怒る睦は
あれだけ吐き出したにも関わらず
まったくおさまる様子はなかった。