第25章 時間を超えて。
この辺りを…というよりも
この時代を知らないであろう睦が
1人で外に出たからだ。
あいつは慎重派には見えなかった。
思いついた事を好きなようにやる性格だろう。
玄関の下駄が無くなっていた。
という事は間違いなく、外へ出たのだ。
土地勘も何もないくせに、
どういうつもりで外なんかに出るんだ。
しかも1人で。
ヒモで括っときゃ良かったのか…?
「目星はァ」
「んー…ねぇなぁ…」
「何でだよ!」
「だってアイツ
何考えてんのかわかんねぇんだもんよ」
「てめェの嫁だろ!」
「だって実弥ん、
今のアイツ、あいつじゃねぇんだぞ」
「頭大丈夫か」
ぷいっと機嫌悪そうに顔を背ける不死川。
睦の事で機嫌を悪くした時は
ひどく心配している時なのを俺は知っている。
「また怒らせるような事したんじゃねぇだろうなァ」
「またって何だよ」
「睦の事となると見境ねぇからなァ」
「あぁ、そうなのよ。
ちょっと可愛がりすぎちまって…」
「はァ?」
ジロリと俺を睨む不死川。
……、あ、
「いや、文字通りだぞ?
ホント可愛くてよぉ。いつも可愛いが
…なんつぅの?素直っつうか、元気っつうか…。
お転婆で跳ねっ返りで手に負えねぇ感じ」
「…誰の話をしてる?」
「睦だよ」
「何を…」
不死川が何かを言いかけた時、
前から見慣れた人影を見つけた。
「あ……」
もう言葉にもならなくて
声すら出ない…
…居た。
無事で…。
だってそりゃ焦りもするだろ。
愛しい女の中身が、別人になっていて
しかも今度は身体ごと消えちまったなんて…。
そんなん、絶望でしかねぇ。
遠くに見える睦であろう女は、
見覚えありまくりの男と腕を組んで
キョロキョロとあちこちに目をやりながら
それは楽しそうに何かを話している様子。
ふと、俺たちに気がついた煉獄が
こちらを見ながら睦に何かを言った。
すると睦も、パッとこちらを見遣り
俺のことを見つけた瞬間、満面の笑みを作り
煉獄の腕を離したかと思うと
両手を広げ全力で駆けてくるではないか。
「てんげーんっ‼︎」
なになに、なにアレ可愛すぎ。
睦は俺の少し前で踏み込むと
そこから俺めがけて飛躍して
胸の中に飛び込んできた。