第25章 時間を超えて。
私と正対していたその男性は、
隣に立ったであろうその人を見た途端、
無言でそそくさと店の中に入ってしまった。
「……」
どういう事?
なんで急にいなくなっちゃうの?
私の話を聞いてくれるはずじゃ…?
頼みの綱が
ぷっつりと切れたような気がして
私はその場にへたり込んでしまいそうになった。
だいたい誰に恐れをなして
あんなにそそくさと消えたわけ?
キッと横を向くと…
なんとも派手な出立ちの男の人が
腕組みをして仁王立ちしていた…。
肩より少し長い髪は
クセなのかぴこぴこ跳ねて、
黄色からの赤が目に眩しい。
横顔しか見えないが、
きりりと引き締まった眉、
意志の強そうな目、
炎のようなマントの…
…誰だ。
「君がこのような
いかがわしい店に入ろうとしていた事を知ったら
宇髄が悲しむぞ」
宇髄、と言った。
天元の知り合いだ。
私はホッと胸を撫で下ろす。
だって、あのお屋敷に帰れると思ったから。
ていうか、それよりも…
「ここ、イカガワシイの?
ただのごはん屋さんでしょ?」
「……表向きはな」
「…ホントは?」
「私娼を抱える店だ」
「なにそれ」
私が首を傾げると、
その人も何かを思ったのか
きゅっと首を傾げた。
「なぁに?」
「女性が、身体を売る所だ」
「…‼︎」
私は自分の髪が逆立つ、
かと思うほど怒りが込み上げた。
「……なぁんだとぉ⁉︎
親切なフリしてこのくそじじい‼︎」
「睦っ‼︎」
大慌てで私の口を手で塞ぐ。
その手を引き剥がして
「私を何だと思ってんのよ‼︎
みんなして私の身体だけか…‼︎」
言いたい事を、
閉まった店の戸に向かってぶち撒けた。
だってあまりにもひどいでしょ⁉︎
「睦⁉︎…君は本当に睦か⁉︎
どうしたというのだ!」
チラリと私の顔を見て
間違いなく睦だという事を確認してから
今度は戸に向かって石でも投げてやろうとする私を
羽交い締めにして、
必死になって私を止めようとする炎っぽい人。
「もういいから落ち着くんだ!」
大きな声で言われ、
私はハッと我に返った。
その人の顔を見上げて、
更に、冷静になる。
でも、…でもだよ?