第25章 時間を超えて。
自分が言ったのだ。
化粧をしてやるからって。
目を閉じてろって。
それなのに何てこと言うかな!
「な?だから、俺のせいだろ?」
「な、じゃないよ!いい加減に…」
「ムリ。俺が悪いって事にして、許せ…」
前にも同じこと言った気がする、と
呟きながらまたキスをする。
この人は、どういうつもりで
こんな事をするのだろう…?
私を、自分のものとしてくれているのだろうか…
……して、くれている…?
私も…何を考えているのやら……
「睦、」
唇からはみ出した口紅を
親指の腹で拭いながら、天元は私を呼ぶ。
薄く目を開くと
私に移し切れなかった口紅が
彼の口唇を淡く色づかせていて
私はつい、そこに指を伸ばした。
「…私より綺麗じゃない…?」
きゅっと拭き取るように指でなぞると
「ンなワケねぇだろ」
楽しそうにクッと喉を鳴らす。
「そんなわけある…。
キレイね、今も、昔も」
「それはそれは…。
睦こそ、
…俺のことを虜にするのよ相変わらず」
「自分こそ、惹きつけてくるから…」
「お前が可愛いからなぁ?」
…うわー。
「やっぱり口がうまいのね、」
八方美人…?と言いかけた所へ
それを見透かしたかのように、
「睦にだけな…?」
そんなひと言。
「どの口が言うのかしら…」
ついこぼしたボヤきを、
「この口、だけど…?」
真に受けて下さる。
受けて…また唇を寄せた。
伏せた瞳。
少し傾いた頭。
……。
そのおでこをぺちっと掌で止めて、
「…またする気なの?」
緩く睨みつけてやる。
チラリとこちらを窺って、
「…さぁ…?」
返事を濁す天元。
このままじゃやばい。
いいように遊ばれる。
私を弄んでいいのは、
世界でただひとり、私の天元だけなのだ。
「……やば」
カランと下駄を鳴らして
私は1人、見慣れない景色の中を歩いていた。
石造りの真四角の建物や、
背の低い瓦屋根の商店…
石畳だったり、
舗装されていなかったり…
行き交う人は、
モダンな着物姿やレトロなワンピース。
…夢の中かな?
危険な天元の目を盗み、
このままではどうにかされる予感がして、
私は何も言わずに、
あのお屋敷を抜け出して来た。