第25章 時間を超えて。
「わぁ!素敵!」
白黒のストライプ柄(縞お召って言うんだって)。
半襟は薄めのブルーの、
帯は青紫にピンクのお花柄。
姿見の前でくるくる回る私を、
一歩引いた所から腕組みして眺めていた天元は
なんだかご機嫌な様子で
「化粧もしてやろうか」
軽く言った。
お化粧‼︎
「そんな事も出来るの?女装でもするの?」
そうでもなければ
男の人がお化粧なんかできるわけない。
…と、思ったのに、
「お前俺が女装なんて出来ると思うか?」
最もな事を言われ
私はふと固まった。
確かに似合わなそうだし
そんな事する意味もわからない。
「…じゃなんで?」
「俺様は何でも出来るワケよ」
そう言いながら
鏡台の引き出しに丁寧に仕舞ってあった
アイシャドウや口紅を取り出した。
「勝手に使っていいの?」
「勝手にじゃねぇよ。お前のモンだ」
「私のじゃないよ」
「今はお前のだ」
「…そう…?」
いいのかな…
ていうか、
「お化粧くらいなら、私できるよ?」
やってもらう必要があるのかな…
と、少し首をひねるが
「…俺の手で、睦を美しくしたい」
天元は嬉しそうに
しかも優しく笑った。
そんな顔をされたら、
お願いしないわけにはいかなくて…
「…うん…お願いします…」
素直に了承せざるを得ない。
鏡台の前に正座をした私の身体を
囲い込むように両足を投げ出して座った天元は
それにどきりとする私を知ってか知らずか
「軽く目ェ閉じてな」
爽やかに微笑んだ。
言われた通りにするけれど、
…やっぱりちょっと緊張するな。
だってこんな事、誰かにしてもらった事がない。
お化粧なんて、お店に出るために
無理矢理覚えたようなものだ。
私にとっては、あんまり必要性を感じない…。
でも、私の瞼に触れる彼の指は
あったかくて優しくて
…私の勝手かもしれないけれど、
愛すら感じるんだ。
目を閉じていて、視界が遮られているから
彼の顔も、もちろん自分がどうなっているのかも
わからない状態だというのに
自分が素敵に変身していくような気がして
気分が高揚しているのがわかった。