第25章 時間を超えて。
「…昔の天元も優しいのね」
幸せそうな笑みを作って
再び俺に抱きついて来る。
「…昔、か」
俺は昔なのか。
「お前の『俺』も、ちゃんと優しいか?」
「すっごく優しいよ。
あなたにも勝るから、きっと」
くすくす笑う睦。
こいつの言う事が本当なのだとしたら
とんでもない状況だ。
「…不安じゃねぇのかよ?」
少し顔を傾けて覗き込むと、
どうやら心から笑っているようだった。
「天元がいてくれるから平気」
「あれまぁ、可愛らしいこと言うんだな。
俺でもいいわけ?」
俺もつられて笑ってしまう。
こいつは、人を惹きつける。
そういう何かを持ってる。
「いいに決まってる。だって、天元だもん」
「こんなカオだけど?」
「あー、そういうコト言うのね、
ごめんて言ってるのに」
ちょっといじけて見せる姿が
超絶可愛いんですけど‼︎
なんだコイツは…。
危険だ。…もう危険物だ。
睦の皮を被った…
いや待てよ、中身も睦なのか。
いやいや、でも別人らしいし、
ただ睦…だし…?
「っだぁあ!」
「うわぁ!何よ急に!」
俺の叫びに驚いて、
巻きつけていた腕をぱっと離した。
「やめだやめ!もういい!
お前は可愛い!それでいいわ」
俺は考える事を放棄したついでに
睦の身体を抱きしめた。
「っ…!」
強い力に息を詰めるくせに、
「…天元こそほんとの睦がいなくて
心配じゃないの?」
申し訳なさそうに目を伏せる。
自分があり得ない状況に陥っているというのに
今度は俺の心配だ。
人に気遣いが出来るところは
おんなじなんだな…。
「そりゃ心配だ。心配で心配でしょうがねぇけど
今はお前を守ってやらなきゃならねぇしなぁ…」
「…私?」
「あぁ、お前を。
どうやら心から楽しんでるっぽいけど。
なんだか色々不便そうだしな?」
睦の夜着の襟元を
くいくいと引っ張ってやると
あ、と気が付いたらしく
「…そ、ですね。
着替えすら1人でできないとか…」
照れくさそうに笑った。
「大丈夫だよ?私、きっとすぐ
元の天元のとこに帰るから。
そしたら絶対、ほんとの睦も
戻って来るからね!」