第25章 時間を超えて。
少しだけぎょっとして私を見下ろし
「…なにしてんの?」
心から不思議そうに言った。
「着替えしねぇのかよ」
「え…着替えなんかどこにあるの?」
キョロキョロと辺りを見回すけれど
それらしいものは置いていない。
あ、もしかしてあの小さなタンスの中…?
そう思って見つめていると、
「……あそこん中じゃねぇぞ?」
私の考えを読んだかのように
先回りして答えをくれた。
がくっと項垂れた私。
「じゃあどこにあるのよぅ」
おちょくられてるのかと思い、
何だか悲しくなる私に
「お前の部屋に決まってんだろうが」
やっぱり呆れたように言う天元。
……
「私の、部屋……?」
私はもう1度、部屋の中を大きく見渡した。
「…ここ、旅館とかホテルじゃないの?」
「何言ってんの?睦、しっかりしろよ、
ここは俺の屋敷で、お前の家だろ?」
「…は?」
天元の屋敷で、私の家?
…なんじゃそら。
私はぽかんと口を開けた。
まったく意味がわからないぞ。
「…まっ、て…?あなた、天元よね?」
「はぁあ?見てわかるだろ」
…まぁ、確かに。
呆れを通り越して
心配し出した天元の後ろに、
七宝紋様の布で覆われた鏡を見つけた。
引き寄せられるようにその前に立ち、
そっと布を捲り上げる。
磨き上げられたように綺麗な鏡には、
間違いなく私の姿が映し出された。
…私だ。
少しだけホッとしたのも束の間。
激しい違和感を覚えた。
「髪が…」
鏡から目を戻し、
実際の髪を一房手に取った。
背中を覆い隠す程の長い髪。
長さはほぼ変わらないが…
「…真っ黒じゃん!」
全部の髪を手繰り寄せてみるけれど、
毛先だけピンクに染めているはずの私の髪は
見事に真っ黒になっていた。
「なんで⁉︎天元がやったの?」
気に入ってるのに!
「何で俺だよ!つうかずっとそうだったろうよ」
「えぇっ⁉︎そんなわけないじゃん!
だいたい何なのココ!もうわけわかんない!
マンション帰りたい!」
わからない事だらけで
頭がおかしくなりそうだ。
「ワケのわからねぇ事を…!」
天元は天元で、
こんな私を前にイラついたらしく
すっくと立ち上がると
私の手を取り無理矢理立ち上がらせた。