第25章 時間を超えて。
「痛い、ねぇ…?」
恐る恐る訊くと
「痛かねぇよ。
睦が泣いてる事の方がよっぽど痛ぇや」
だから泣きやめ、と
私の髪を撫でる手が言っている。
うん…
わかったよ、もう泣かないから…。
泣かないけど。
「…ねぇここどこ?あとソレ、」
まだ涙の残る目を凝らして、
私は天元の着ている
寝間着を指差した。
「私があんなこと言ったから?」
着物が素敵とか。
…でも着物は持ってないって言ってたのに。
「……さっきから何言ってんのか
さっぱりわかんねぇんだけど」
頭の上に?をいっぱい並べて
天元は顔をしかめた。
…なんかおかしいな。
会話が噛み合わないというか…
天元は天元なのに天元じゃないというか…
「…とりあえず起きよう。
話はそれからな」
私のおでこにキスをしてから
天元はがばっと掛け布団を跳ね除けた。
「…おい睦」
私の目の前にあぐらをかいた天元は
じっとこちらを見つめる…。
「……なぁに?」
「手ェ離せ」
「あぁ、ごめん」
私は抱えたままだった彼の左腕を
ぱっと離した。
「さ、」
自由の身になった天元は
何事もなかったかのように
掛け布団をたたみ始めた。
手慣れた動き。
普段はベッドメイクをきちんとしてる彼だけど
畳んでいる姿は初めて見たかも。
「………」
手際の良さについ見惚れていると
私の事をジッと見下ろして
「…まだ眠かったか?」
気遣うようなひと言。
「ううん!大丈夫!」
慌てて答えると
「そうか」
満足そうな、綺麗な笑みを浮かべ続きをし出す。
「私も手伝う!」
「いいよ、お前は先に着替えて来な」
こっちを向く事もなく
ひどく優しくそう言ってくれる。
天元は、天元のようだった。
ただ傷と、この場所だけはよくわからない。
何が何だか。
敷布団から畳に降りて座り込んだまま
私は膝を抱えて部屋中を見渡した。
知らない場所。
どう見ても。
あの後、…私が寝てしまってから
この場所に連れてきたと言うのだろうか。
だけど、それもおかしな話だ。
そわそわする気持ちを抑えて、
私は彼が布団を……押し入れ?に
運ぶ様を眺めていた。
ぱたんと押し入れを閉め、
ふと振り返った天元。