第24章 スルタンコラボ続き 〜睡蓮の恋〜
「ジャナ、あなたのパンより美味しいものなんて
きっとこの世にはないわ」
ひと噛みひと噛み、
じっくり味わっていると、
「えー?俺のパンケーキより?」
ひどく不満そうな声がして、
私の手の中のパンが忽然と姿を消した。
その行方を追って見上げると
いるはずのない…
いや、いてはいけない人がそこにいて、
私はつい、ガタっと大きな音を立てて
立ち上がってしまった。
「ア…⁉︎」
その人の名前を呼びそうになって…
ドアの前にまさかの人を見つける。
静かにドアを閉めて
ゆっくりこちらに向かってくるのは天元だ。
なんで⁉︎
こんなのもう、
天元がアシルを連れてきたとしか思えない。
一体どういう事…!
思い切り混乱している私の目に、
咀嚼しているアシルが映り……
「アシル‼︎私の食べかけ…!」
「うん、美味しいね」
「パンね⁉︎」
「睦の食べかけ」
パンがって言ってよ‼︎
いたずらが成功した少年のような笑顔。
「な…な…!」
何を言い出すの⁉︎
そう言いたいのにうまく言葉にならない。
「おいこら、何が美味いって?」
頬肉ががフニっと持ち上がる程
顎を握られたアシルが、
「たえかけのはん」
それでもニコッと笑った。
「何だと?」
反してご機嫌ナナメの天元…
「たえかけの、はん!」
「きーこえねぇなー」
ポイッとアシルの顎を放るように離した。
「だから、睦の食べかけのパン」
「はいはい。そりゃ世界いち美味いだろうな」
不機嫌丸出しの天元は
そのまま私の元へやってきて
腕を巻きつけるようにして抱きついた。
立ち上がっていた私は
簡単に彼の腕の中だ。
2人の王子を前に、
ジャナはかしこまって一歩引いてしまったし、
…でも出て行ってしまわなかっただけ
良かったと思おう。
彼女なりに、私に気を遣ってくれたんだと思う。
以前の彼女なら、
そそくさと出て行ってしまったに違いない。
でも今は…私を見捨てたりしない。
もう友人、っていうことかな…?
そんな事に少し浮かれながらも、
「…あの、天元、」
ちゃんと理性が働いている。
こんな人前で、いちゃつかれる事に
多少の抵抗がある。