第24章 スルタンコラボ続き 〜睡蓮の恋〜
あーもう…!
しょうがねぇなぁ。
「アシル」
「何だ」
「睦にフラれたらきっぱり諦めるか」
「…俺も同じこと言っていい?」
……同じこと?
「…誰に」
「天元に」
「俺が、睦にフラれるって事か?」
アシルはにっこり笑ってみせた。
これは俗に言う、
天使の皮を被った悪魔、ってやつだ。
笑っているくせに
悪意しか感じねぇ。
つうか、何でこの俺がフラれんだよ。
睦は今や、
俺ナシではいられねぇっつうの。
でもこいつがここまで言うんだ。
何かしら、ウラがあるのかもしれねぇ。
少しだけ警戒しながら、
俺はアシルも同行する事を承諾するのだった。
「ねぇ、ほんと、パン屋さん開いたら?」
少し遅い朝ごはん。
ブランチを楽しんでいた私は、
隣に立つジャナに話しかけた。
ジャナが焼いたというパン。
今日はチョコレートとキャロットだ。
柔らかさといい、香りといい味といい、
どれをとってもお店のものに
引けを取らないのだ。
そして何より私の口に合う。
「この間のパンプキンもおいしかったなあ…
絶対に売れると思うな」
「本当ですか?
睦様がそうやって褒めて下さるから
たくさん研究したんです!」
「研究…?」
「そうです!あんなに喜んで戴けるのなら
もっともっと美味しいものを
作りたくなってしまって…!」
夢見るように両手の指を組み、
うっとりとジャナは言う。
「今日は特別に、」
思わせぶりに言葉を切って、
ジャナはワゴンの下の段から、
「ふわふわのミルクパンを作りました!」
ジャジャーン!という効果音でも
聴こえて来そうなくらい
自信たっぷりに大きなカゴを差し出した。
まだ少し湯気の立つそのパンは
真っ白くてまんまるで、
見るからにふわっふわ。
小さくて可愛くも見えるパンたちが、
私に『食べて』と言っている。
「食べてもいいの⁉︎おいしそう…!」
「もちろんです。
睦様に食べて戴きたくて焼いたんですから!」
嬉しい事を言ってくれるジャナに見守られ、
私はその1つに手を伸ばす…。
指先で触れただけで、
いかに柔らかいかがわかる。
ぬくぬくのパンをそっとちぎって口に入れると
「おいしーい!」
幸せが全身に広がっていく。