第4章 回想
「まぁ、俺に出来ることしかできねぇけど…」
そんな事言われてもなぁ…
…あ!
「木のぼりできる?」
「木のぼり?」
「この木にのぼってみたいの。景色見たくて。
いつものぼろうとするんだけどうまくできなくて…」
その子は大きな木を見上げて
「これくらいなら大丈夫だ」
と言った。
「ホント⁉︎嬉しいな、木のぼりおしえ…て…」
話している途中で、私は抱き上げられた。
——は?
「軽っ!お前ちゃんとメシ食ってんの?」
「え?…え、何してるの?」
「このくらいの高さならいける」
「…あの、下ろして?木のぼり…」
「のぼるより跳ぶ」
そう言った途端、
「う、わぁ!」
本当に跳んで、
…高い枝に乗った。
私は怖くて彼にしがみついていた。
幹につかまり、枝に座るように促され
ゆっくり腰をおろすと足を垂らした。
「すごい!すごいね!すっごく跳んだね!」
私が興奮すると
「わかったわかった」
とあしらうように言う。
でも、顔は優しい。
「ホラ、向こうまで見えるぞ」
彼が跳んだという事にばかり気を取られていた私は、景色を見たいと言いながら、その事を忘れていた。
「景色、見たかよ。オヒメサマ?」
「…ぷっ。お姫様?」
彼の軽口に吹き出した私は、
そのまま目の前に広がる景色に目をやって驚いた。
「うわぁー!」
つい大きな声が出る。
今日は晴天。遠くの山までとてもよく見えた。
屋根の上なんて初めて見た。
道行く人々も小さくて、おもしろい。
眼下に広がるそれらは、まるでおもちゃのようだ。
地上より少しだけ強い風が、私の髪を撫でていく。
何より、目の前を塞ぐものが何もない。
なんて気持ちいいんだろう。
「すごい!きれいだねぇ!
鳥はいつもこんな景色を見てるんだね!」
そう笑いかける。
男の子は、私と同じように
笑っているものだと思っていたのに
やけに真剣な目でこちらを見ていた。
…あれ?
何でこんな顔してるの?
「…どうしたの?」
「お前、あの…さっきのメシ、
作れるように勉強してんだよな?」
急な話題変換に少し戸惑った。
「え…?うん、そうだよ」
「じゃいつか、作れるようになるんだろ?」