第4章 回想
「…うん。そうなれたらいいな」
「そうなれよ」
男の子はぐっと近づいて力強く言う。
その気迫に押され、
「う、うん」
反射的に返事をした。
「そしたら毎日俺に食わして」
「えっ、毎日?」
お店でも開けと言うのだろうか。
「そんなに気に入ったんなら、
おじちゃんのお店に行けば今からでも食べられるよ?」
私がそう言うと、その子は顔をしかめる。
「お前の作ったのじゃなきゃ嫌だ」
「…わたしの?」
「あぁ」
自分が、にやけている事に気づいた。
私を、必要としてくれている人が現れた事が、
こんなに嬉しいものか。
おじちゃんのじゃなくて、
私のじゃなきゃイヤだと言ってもらえた。
「いいよ!」
嬉しすぎて、つい勢いで返事をしてしまう。
「じゃさっきのメシくらいうまいの作れるようになったら、お前ずっと俺のそばにいろよ?」
「…何で?」
「メシ食わしてもらう代わりに
俺がお前を守ってやる」
「…そうなの?守るって…、何から?」
「何からもだ。悪いヤツからも、
悲しい事からも全部、何もかもから守ってやる」
強い意志が、その瞳から見てとれた。
悲しみからでさえ、私を守る…。
「ごはんを、作ってあげるだけで…?」
何だか、釣り合わない気がしてならない…。
「だって、命、なんだろ?
俺に命を与えるんだぞお前は」
あぁ…そうか。
…でも、
「私なんて、
そこまでしてもらえる人じゃない気がする…」
私はつい、俯いた。
その時見えた地面が、
予想した以上に下にあって…
「…すっごく高いね」
無意識に口をつく。
「…は?…あぁ。怖いか?」
「ううん、怖くない。楽しい」
「ヘェ…」
彼は驚いているみたいだった。
でも。足がふわふわするの、
初めてのその感覚がおもしろいのだ。
「なぁ」
さっきよりも低めの声で呼ばれて
ぱっと彼に目を戻す。
「さっきの話、俺のそばにいるって言えよ」
何だか、すごく俺様な感じだ。
そして割としつこく、食い下がってくる。…
「何でそんなに?」
不思議で仕方がなかった。
おじちゃんとおばちゃん以外で、
私に執着する人間がいたという事が。