第4章 回想
「新しくあげたんだよ。
ちゃんと、自分の力に変えてね」
「命を、俺にくれた…?」
その子は呟くように繰り返した。
命って言ったって、おにぎりなんだけどね。
私は自分が、
他の人と違う事を言ったりするのに気づいていた。
わかってた。
だから、黙ってしまったその子を見て
またよくわからないことを言ってしまったのかと
少し不安になる。
1年かけて、毎日同じ事を言われ続けたら
いくら出来の悪い私だって
覚えるし理解する。
ただ、私なりの解釈だから、
ちょっと変わっている。
『ごはん』→『食べる』→『生きる』→『命』
という公式は略されて
『ごはん』→『命』
になってしまったのだ。
「食べたらわかるよ」
もう一度、にこっと話しかけてみる。
その子は気まずそうに目をそらすと
「いただきます」
と言ってから遠慮がちにおにぎりにかぶりつく。
「あ!」
「え?」
「いただきます!」
言い忘れてた。
この子の言ったので思い出した。
「…遅ぇわ」
そう言ってまた笑う。
そばで誰かが笑ってくれるのって、何だかいいな。
私たちは、たくさんお話しをしながら
おばちゃんが持たせてくれたごはんを
すべて平らげた。
1人では多いごはんも、
2人だと少ないくらいだった。
「ごちそうさまでした。うまかった!」
最初の印象とは大違いの、
満面の笑みで話す男の子。
ホラね?変わったでしょう?
文字通り、命が吹き込まれたように
生き生きとしてるもの。
やっぱりおじちゃんの作ったものは命なのだ。
「これ、お前が作ったのか?」
「違うよ。向こうでお弁当屋さんやってるおじちゃんが作ってくれてるの。私もいつか作れるようにね、勉強中なんだ」
おじちゃんのごはんを褒めてもらえて
私は嬉しかった。
「…ヘェ…。そうなのか…」
何かを考えるようにしながら言う彼を不思議に思って首を傾げると
「いや、何でもねぇ。
さ、今のメシのお礼に、
何かしてやれる事はねぇか?」
急にそんな事を言い出す。
そんな事を言われても、何も浮かばない。
それでなくても、自分の望みなんて考えたらいけないと思って暮らして来たのに。
「……」
「ホラ、何かねぇの?」
「…なにかな…」