第24章 スルタンコラボ続き 〜睡蓮の恋〜
どれくらいそうしていただろう…。
夜風が私の肩を撫で、
その冷たさに全身を震わせたその時。
後ろから不意に伸びてきた腕に
強く抱きしめられた。
「っ!」
驚きのあまり、声も出せなかった。
強い腕の力。
私の背中に当たる、その腕の主の胸。
冷え切った身体をあたためるように屈み、
「…寒くないのか?」
耳元で囁かれる、優しい声。
どくっと、心臓が跳ねた。
…およそ、ときめきとは程遠い。
天元じゃ、ない。
知ってる、この感じ。
また、私の喉元にナイフを突きつける?
ねぇアシル…
「な、んで……」
「会いに来た」
「…は…?」
恐ろしくて、声も出ない。
カタカタと顎が震えて
言葉が出ない。
呼吸さえ、ままならない。
「怖がらないで…。ごめん…」
本当に申し訳ないと思っている気持ちが
伝わってくる。
だからと言って、
私が落ち着ける材料にはならなかった。
「離して…!」
「会いたくて、しょうがなかった」
「な、に…?…はな、れてよ…!」
この人と距離を取りたくて、
それに必死な私は
何を言われたのかがよくわからない。
アシルの腕に手をかけて
ぐっと力を入れたけれど
まったく動く気配はなかった。
「逃げないで睦…」
泣きそうな声で縋られて
私は更に混乱する。
トラウマのせいだけじゃない。
危険を感じるんだ。
だってもしかして、…さっきこの人、
…会いに来た、って、言ったんじゃないだろうか。
私に?
「どうしてここにいるの?なんで…」
…でも、アシルは前にもこうやって
ここまで潜り込んできたじゃないか…。
「睦に会いに来たんだ」
わかってよ、とでも言うように
アシルは私を強く抱きしめ直した。
「会いに、って…。何か用事なの?」
私は上体をよじって
そこから逃れようとする。
「用なら聞くから…」
離してほしい。
怖くてたまらない。
どうしてこんな事をするのか。
どうしてここまでやって来たのか。
また私を、死ぬような目に遭わせるのか…
「少しだけこのまま居させて、お願いだから。
ひどい事は、しないから…」
背中から抱きしめられて、
私にはこの声の主の顔が見えないまま…
…似ているの。
天元と、同じ声をしてる。
勘違いしてしまいそうになって、
私は顔だけを後ろに向けた。