第4章 回想
自分と似ているこの子を、
私も救えないだろうかと思ってしまったんだ。
だって今、私は楽しいから。
楽しく生きているから。
「このごはんはねぇ、命なんだよ?
食べるって生きる事なんだって。
その命を、いらないなんて言っちゃいけないんだよ」
私ははい、と、おにぎりを1つ、
その子の手にムリヤリ押し付けた。
いつもなら空き家の中に勝手に入って食べるのだが
今日はその場でおかずを広げた。
今日は肉じゃがだ!大好きだ!
私がそれを目いっぱい頬張ると
その男の子はぷっと笑ってみせた。
「あー、笑ったぁ」
それが嬉しくて、私もふにゃっと笑うと、
その子はもっと笑って、
「変なヤツだな」
と言った。
「変?」
そんなふうに言われたのは初めてだった。
「あぁ、変だ。何で俺に構うんだ。
別にどうでもいいだろ?」
「…ううん。どうでもよくないよ?
どうでもいい人なんて、いないもん」
前におばちゃんがそう言っていた。
私の言葉に、その男の子はひどくびっくりした表情でこちらを見ていた。
「俺の事なんか知らないくせに?」
「…うん。私は知らないけど。
大切に思ってくれる人はいるでしょう?」
「…あぁ…」
あまり気のない返事。
…おばちゃんに言われた事を言っているだけで、
実の所、私自身にもよくわかっていない。
その事に気づかれたのかもしれなかった。
その子は私の顔をずっと見ていた。
「……」
「…食べないの?」
私は
「おいひいよ」
お行儀悪く、咀嚼しながら話しかける。
いつもおばちゃんに叱られる。
私は、おにぎりを持っているその子の手首をつかんで口元へ持っていき、
「あーん」
…としてあげる。
ハッと気づいた男の子は
「自分で食えるわ!」
顔を赤くして私の手を振り払う。
「…そう」
言いながら私は、自分のおにぎりを頬張った。
おいしい。
「…お前うまそうに食うな」
ぼそりと言う彼に
「本当においしいからね」
にこっと笑ってみせる。
「…コレ、お前のじゃねぇのか」
「私のだけど、まだあるから大丈夫だよ」
「そうじゃなくて…お前の命なんだろ?」
「…うん」
「命なんて、分けてやるもんじゃねぇだろ。
こんな見ず知らずの人間に」
「…分けてなんかないよ。あげるんだよ」
「…」