第24章 スルタンコラボ続き 〜睡蓮の恋〜
「ごめんねアシル…」
お待たせ、と小さく呟いて
睦は目を泳がせた。
まともに顔を合わせられないようだ。
「いや、全然。今日も来てくれてありがとう」
何の気なしに言っているのはわかっている。
だが、なぜこうも険のあるように聞こえるのか。
ただひとつ救いなのは、
歩き始める際に睦が俺の手を握った事。
その腕に顔をうずめ、寄り添ってくる。
……
わかってるけどな。
アシルから隠れるためだと。
ただ照れてるだけ。
恥ずかしかっただけだよな。
それなのに喜んでしまう俺も俺だ。
自分はこの男のものですと顕示されたようで…
そういう意味でされているわけではないと
わかってはいても
やっぱり嬉しいものは嬉しい。
俺もまだまだか…。
店に着く頃には睦もすっかり元通り。
この間と同じように
アシルと笑って話ができるようになっていた。
だがあの笑顔の下に、
大きな不安が隠されているのかと思うと
なんだかやるせなかった。
アシルがまたおかしな気を起こさないか、
そんな懸念を払拭するために
仲良しでいたいと言って泣いた睦。
環境を変えた事で、
弟は別人のように穏やかになった。
だがそれは、また何かのきっかけで
あの時のように戻りかねないという事だ。
それは睦にとっては脅威でしかないだろう。
仲良く…、というのは
つまるところ、自分の目でアシルを見張り
大丈夫かどうかを確認したいという事で…。
ハタから見たら、ただの仲のいい2人。
その実、片や懐疑の念、片や恋情を抱き…
拗れてんなぁ……
何も起こらないといいが。
「ジャナはさ、怖い事とかないの?」
「…はい?」
「うん…ごめん」
急に訊くことじゃないわね。
私も何を言い出すんだか。
どんだけ怖いのよ。
「ありますよー?怖い事」
のんびりと言ったジャナは
私のグラスにいつものレモン水を注ぎながら
「放っておかれる事」
と、はっきりと答えた。
「放って、おかれる…」
予想外の言葉に、私は息を凝らした。
何でもない事のように
あんまりサラリと言うから…。