第24章 スルタンコラボ続き 〜睡蓮の恋〜
「どうぞ、いってらっしゃいませ睦様」
にっこりと微笑んだアーディルさんからは
本気は感じられなかった。
きっと天元を、揶揄っている…
というより、試しているように見えた。
だから私は、安心して
その部屋を出たのだった。
「…気づいてらっしゃいます?」
唐突にアーディルが本題に入る。
声色もすっかり普段通り。
……
「睦のこと揶揄ってんのか?」
「あなたに打診しているんです」
「なんで俺に打診?」
「なんででしょうねぇ?」
思わせぶりな言い方。
「それより、気づいていらっしゃるんでしょう?」
「なににー?」
「そう来ますか…」
アーディルは顎に手をあて
わざとらしく考え込むように見せる。
「でもねぇ…
ナニカに気づきでもしなけりゃ…」
俺が何に気づいてどうするかなんて
誰に言わなくてもいい事だ。
他でもない、睦の事なら尚更だ。
「ジャナが来るってわかってて
そんな事するなんてあり得ないでしょ。
独占欲のカタマリ王子なのに。
睦様の声とか絶対に
他人に聴かせたくないタイプですよね?
周りから固めたかったんですよね?」
「何の話をしてんだよ」
俺は持ち主の居なくなったベッドから下り、
アーディルが用意した果物に手を伸ばす。
「私は毎日、睦様と一緒に
アシル様の所に通っていたんですよ?」
「うるせぇな。
胸くそ悪ィ話を蒸し返すんじゃねぇよ」
「蒸し返すも何も、
最初からその話をしているんです」
「する気ねぇし」
「アシル様、いいんですか?」
……あーもう…
「いいも何もねぇだろう。
俺は睦を手放すつもりはねぇ」
「あなたがそのつもりでも…
アシル様、突っ走りがちですからねぇ」
「睦が気がついてねぇのが救いだな」
「アシル様自身も気づいているんだか…」
アーディルはもう一杯、紅茶を淹れ出した。
「お前さすがの観察眼だな…」
その通りだ。
アシル自身、
気づいていないかもしれない淡い恋心。
睦にまったくその気がなくても、
毎日自分に会いに来る女を
愛しく思わない男がいるはずもない…
よっぽど嫌っていない限り…。