第4章 回想
「お前何だ。何見てやがる」
「……ごめんなさい」
「……」
男の子はいきなり謝られて
面くらっているようだった。
——何だか機嫌が悪そうだ。
何かあったのか。
私が覗いていたからなのか。
「…ここ、お前の隠れ家か」
私から目をそらし、
再び的目掛けて黒いものを投げながら聞いてくる。
トンっと当たった。…真ん中じゃない。
…はぁ、とため息をつくと、両足を投げ出した。
「だーめだ」
「…」
的当ての練習してるのかな。
「…お前聞いてんのか」
じろりと不機嫌そうに見るので、
私は焦って、こくこくと頷いた。
それを見た男の子はぱっと立ち上がった。
あ、行ってしまう、と思った瞬間、
「あのっ…!」
声が出ていた。
声をかけて、どうしようと思っていたのか。
具体案がないまま、体が動いていた。
その子はくるっとこちらを向いた。
「ええと…」
何かないか。何か…
「あ、いっしょにごはん!」
「…は?」
我ながらわけのわからない事を言ってしまった。
困ったようなその子は少し目を伏せ、
「…1人で食えば?」
と言って塀の向こうを見上げた。
私は走ってその子の側まで行った。
だって、どっかに行っちゃう。
私がその子の腕をつかんだのと、
その子が塀の上へと跳び上がろうとしたのは
ほぼ同時で…。
どさっ、と、彼は地面に崩れ落ちた。
その反動で私も転んでしまう。
「…ってめえ何しやがる!」
私に噛み付く勢いで怒る。
私は反射的に両腕で頭を抱えて
「ごめんなさい!」
と謝った。
「…なんなんだよおめぇは」
呆れたような声に少し安心して、
腕の隙間からその子を窺う。
すると変なモノでも見るような目で私を見ていた。
あ、怒ってないみたい…
「一緒にごはん食べよう?」
私が言うと、ぷいっとそっぽを向いて
「嫌だ。何でよく知りもしねぇお前なんかと
メシくわなきゃなんねぇんだ」
…もっともだ。
でも私は、一緒に食べたいのだ。
この子を1人に、したくない。
「…いっぱいあるよ」
「…お前聞いてる?何でお前とメシ食うんだよ」
「…おいしいよ?」
「いらねぇ。メシなんか食わねぇ」
「…何で?」
「もういいんだよ」
…。
それは少し前の自分のようだった。
私も、そう思っていた。
そんな私を、
おじちゃんとおばちゃんが救ってくれた。