第4章 回想
「気をつけて行っておいで」
「うん!ありがとう!」
私はおばちゃんから渡されたごはんを持って
いそいそと出かける。
向かうはいつもの空き家。
誰が住んでいたのか、いつから空き家なのかは
全然知らないけど、
近所の人も黙認してくれているし、
私はそこに行くのを毎日楽しみにいていた。
おじちゃんたちが煩わしいわけでは決してない。
最初の頃はどうしていいかわからなくて
1人の時間が欲しかった。
そのための、おでかけだった。
それがいつのまにか、外で食べる昼食になり、
習慣として今まで続いてしまっているのだ。
大きな木が立っている、広いとは言えないおうち。
雨戸はしまっているけれど、
何故か玄関の戸は開いているあの空き家。
私が遊べるくらいの小さなお庭も。
私は何だか、あそこがとても好きだ。
今日もとってもいい天気。
ごはんの後、何をしようかなぁ。
…なんて考えながら、歩を進めた。
子どもの私にとっては高い門に手をかけた瞬間、
トン
という音が聞こえた。
誰かいる、と思って、動きを止めた。
しばらくするとまた、トンっという音がする。
できれば、誰にも会いたくない。
人と話すのは苦手だ。
知らない人は特に苦手。
どうしようか悩んだが、知らない人に会うことより
『トン』という音が何なのか知りたい欲が勝ってしまい、そぅっと門を開けた。
足音を忍ばせて庭の方を覗き込むと、
知らない男の子が膝を抱えて座り込んでいた。
見たことのない子。
黒っぽい、変わった服に、白っぽい髪。
その子はそこから木の塀に向かって、
黒くて長い、尖ったものを投げては刺している。
…いっぱい刺さってる。
アレが、当たってる音なんだ。
何か的みたいなのを書いてある…
「…こそこそ見てんじゃねぇ」
急に声をかけられた私はびくっと体を震わせた。
気づかれていた…
「ハナからわかってんぞ」
あー…。
私はどうしていいかわからず、その場に立ち尽くす。
「……」
「……」
その子は顔をこちらに向けて私を睨みつける。
少し離れているからはっきりは見えないけれど、
日の光を集めて、とってもキレイな目の色をしてる。