第24章 スルタンコラボ続き 〜睡蓮の恋〜
「天元様は無理ですよ?」
アーディルさんは投げやりに言った。
……。
一蹴されるとはこの事。
「天元様は誰が何を言おうと揺るぎません。
確固たる物を持たれておられますから、
残念ながら
私の言葉なんて聞き届けられませんよ」
なんだろう、すっごくよくわかる。
聞きながら頷いてしまいそうだった。
そう聞かされると、
アシルがものすごく可愛いように見えてくるな…
しっかり者の兄と
周りに流されがちな弟。
…守ってくれる人と、
守ってあげたくなる人…。
他愛もない話をしているうちに、
アシルのお店は夕飯前の
忙しい時間帯に突入。
邪魔をしてはいけないと、
アーディルさんと私は帰路についた。
後宮の入り口でアーディルさんと別れ、
別に悪い事をしたわけでもないのに
キョロキョロと辺りを窺いながら
自分の部屋に入り、
背中でドアをそうっと閉めた。
ジャナが開けておいてくれたのだろう。
バルコニーに続く掃き出し窓は全開。
おかげで部屋の中にいながら
外にいるかのような爽快感。
日の傾いてきたこの時間は、
涼しくて優しい風が部屋を駆け抜けて行く。
今まで町に居たからか、
あの喧騒から解放されたこの空間は
ひどく居心地がいい。
無駄に広いソファに身を投げ出して
大きなため息をついた。
目を閉じたら眠ってしまいそうだ。
それはもったいないような気がして
何とか目を開く。
窓の向こう、
真っ白な町並みと
微かに波の音が聴こえてくる…。
……
「…明日は、会えないのか…」
王様や取り巻きたちに怪しまれない為、
アーディルさんは明日は町へは出られない。
明日どころか、しばらくは
おとなしくしていなければならないのだ。
あーあ、
…と、ソファの背もたれに首を預け
天井を向いた…。
私は、天井を見たはずだった。
天井にも、豪華な装飾が施されていて、
それは美しいのだ。
でも、美しいは美しいけれど、…
美しい2つの目が、
私を見下ろしているではないか。
「天、元ッ⁉︎」
「……」
ソファの後ろ、私の背中側に立ち、
真上から私を覗き込んでいた。
私は驚いて飛び退く。
半身を返して
「なんで、居るの⁉︎」
どくどくと早鐘を打つ心臓を両手で押さえた。