第24章 スルタンコラボ続き 〜睡蓮の恋〜
表情も性格もとっても穏やかで…
もともとはこんな人間だったのだろうか。
環境ひとつ違っていたら、
アシルは最初から
こんなに穏やかな人だったのかな。
そう思ったら、
王宮って所はそんなに過酷な場所だったのかなと
私は余計な事を考える。
だってそれなら、
…天元はどうだったのかと思ってしまうからだ。
見る限り、まともに見えるけど。
相当な精神力が必要だったに違いない…
「睦!どうした急に」
考え事に没頭していた私は
急に大きな声で呼ばれ我に返った。
「何でもない!ごめんなさい」
「睦、大丈夫か?」
そう言ってアシルは
グラスのお水を差し出してくれる。
受け取ろうと伸ばした手を
反射的に竦ませてしまってから、
あ、だめだ
と思い直すけれど、
ぎこちない私の動きは
絶対2人に伝わってしまった。
だって、
わかるでしょ?
あのトラウマはすぐに払拭できるものじゃない。
今のアシルが
もうあんな事するはずがないって
わかっているよ。
わかっていても…
あの水を取るのは
ひどく怖い。
だけどアシルの気持ちを考えれば…
「ありがと」
もう不自然なことは気づかれている。
それでも
出来るだけしなやかに手を伸ばす。
取り落とさないようにしっかりとグラスを握って
それを、口に運ぼうとしたその時、
「王子様、失礼します。
ごめんねアシル、ちょっと手伝って」
お店の奥さんが、裏口の扉からアシルを呼んだ。
「はい!今行く。ごめんちょっと…」
気まずそうに私と天元に断って立ち上がり、
去り際に私へと気遣わしげな視線を向けてから
小走りに手伝いへと向かう。
アシルの背中が建物の奥へ消え
完全に見えなくなってから、
私は手に持ったグラスを
口につける事なく、やや乱暴にテーブルに置いた。
その途端、
いつのまにか私の横に来ていた天元に
強く抱きしめられていて…
「睦…ありがとな」
地面に膝をついた天元がぎゅっと力を入れると
私は椅子からズリ落ちて
全身が彼の腕の中に包まれた。
ここは、ひどく安心する…。
「…ごめん…うまく出来なかった…」