第23章 こいびとおにいちゃんズ。の彼女
「楽しかった。
いろんなお話が聞けたし、悩みを共有できて
…みんな帰って解決できたらいいけど…」
不死川さんも煉獄さんも
きっと何とかしてくれるに違いない。
「お前にもあんの?」
「何が?」
「悩み」
「………ない」
「わかりやすいウソを言うな」
「私のなんか、あのお2人に比べたら
幸せな方だから」
「幸せな悩みなんかあるのか?」
わけがわからないと
眉をひそめる。
「私はいいの。
それより想い人には手を焼いているみたいね」
「そうなのか?」
「うん。私にしてるのとはやっぱり違うもの。
意識する人にはうまくできないよね」
何故かあの2人に劣等感に似た感情を抱く彼に
ちょっとした助け舟。
だって申し訳ない事に
私は突然怒鳴られることもない。
この人はある程度なんでも伝えてくれるから
何を考えているのかわからない事なんて
そうそうない。
あの中で私ひとり、
自分は恵まれていると思って
ちょっと申し訳ない気持ちになっていた。
それでも、覚えのある悩み。
私はそれをきっと
乗り越えてきたという事なんだろうな。
「…ん?」
気付かぬうちに見つめてしまっていたようで
少し不思議そうに目を見開かれる。
「ううん。私は天元で良かったってこと」
「ふぅん…よくわかんねぇけど」
当たり前のように腕を引かれ
行き着いた胸にほっぺたを押し付けられた。
……
「…」
「…何か、…さっきから何か考えてるよな?」
「…うん」
実は。
「で?」
「…言えって事?」
「当然」
やだな。
「こら、そんなんでごまかせると思うなよ」
ぎゅうっと強く抱きついた私を
呆れたように見下ろした。
これは…
私たちの場合、逆かもしれない。
本音を隠すのは、私の方だから。
「別に悪い事じゃないよ?」
「それなら余計に話してもらわねぇと」
楽しそうににやっと笑われて、
私も悪い気はしなかった。
こうやって楽しく過ごせる時間は
ひどく幸せだ。
ただひとつ、ちょっと気になるのは
さっきも言った『幸せな悩み』かな。
でもそんなの、ただのわがままだ。
贅沢な悩み。