第23章 こいびとおにいちゃんズ。の彼女
……。
「ごめんなさい。よく…わかりません」
杏寿郎さんは腕を伸ばして
私の髪を優しく撫でてくれた。
「俺は睦は
何もしなくてもいいと思っている。
君のする仕事はいつも見事で、とても助かるが
それは権利であって義務ではない。
仕事をしなくてはここに居られないと
どうか思わないで欲しい」
……
「…つまり、」
「睦は家族同然だ。
焦って家事をしなくても追い出したりはしない。
『したい』ではなく『しなくては』と
思っているのではないかと思ってな」
…思っていた。
そう思っていた、ずっと。
家族でもない私が、
長い間このお屋敷に置いてもらって
何かお役に立てる事をしなくてはと。
「…でも、それは当然のことではありませんか?」
「他の人間ならばそうかもしれない。
ただ睦は俺の大切な女性だからな。
例外なのだ」
にっこりと笑う杏寿郎さんには
嘘も偽りもない。
優しい言葉たちが、私の心に沁み入っていく。
…
それにしても、…。
「…どうして、急にそんな話を…?」
私が不思議に思って訊くと、
杏寿郎さんは更に表情を引き締めた。
「睦。君はこの頃
何か悩んではいなかったか?
俺には言えない、何かを抱えていたな」
「……」
私は驚いてしまって、ただ目を見開いた。
「その理由がこれだと思っていたのだが…
どうやら違ったようだ」
この人が鋭いことはよくわかっていた。
誰の事も気にかけてくれて
分析力も高くて、しかもそれを解決までしてくれる。
「睦が抱える悩みは、俺に関する事だろう。
だから俺には言えないのではないか?」
…その通りだ。
でも、素直に頷けなかった。
だって、杏寿郎さんに不満を持っているなんて
申し訳なくてたまらない。
こんなに良く出来た人はいない。
それなのに私は…。
「俯くな。構わないから言ってごらん」
えー…。
そんなに優しく、
言ってごらんなんて言われたら
余計に言いにくいです…。
そう思っていると、
「………そん、なに言えないような事を
俺は君にしていたのか…?」
ショックを隠しきれない杏寿郎さんは
膝の上に握った拳が震えていた。
「‼︎違いますっ」