第3章 意路不倒
優しい、ね、宇髄さん。
明日からまた、しばらく会えないのはわかってる。
別にそんなの、当たり前だ。
ずっと一緒にいられるわけがない。
でもやっぱり、淋しいものは淋しい。
それに気づいている宇髄さんは、いつもこうやって
私を甘やかす。
私はそれで、満たされる。
唇を離し、親指の腹で私の頬を撫でると、
「…行くわ」
名残惜しそうに言う。
「はい。気をつけて下さいね」
私は微笑んでみせる。
そんな私を見て宇髄さんは、
「睦ちゃん、余裕なのね。
泣いてすがってくれねぇの?」
にっと笑って軽口をたたく。
そんな顔したって、
そんな事言ったって、
「私がそんな事したら絆されちゃうくせに」
優しいあなたは、
困って
どうにもできなくなってしまうのを知ってるよ。
「んー…どうかな」
なんてごまかして目を泳がせている。
私はそんな宇髄さんが愛しくて、
「会えない時も、いつも、想ってますよ」
ちゃんと、胸の内を伝えて、彼の首に抱きついた。
私は式台の上、宇髄さんは土間にいるせいで、
いつもより身長差が縮まっていて、
私でも宇髄さんに届く。
「ありがとな睦。
お前がいるから、俺は帰って来られる」
そう言うと宇髄さんは
私の腕の下から背中ぐるみ抱きしめてくれる。
世界で一番、安心できる場所。
ぎゅうっと力いっぱい抱きしめられ、
するりと腕をほどく。
「じゃ、な。ゆっくり休めよ」
最後に、私の頭を一撫でし、
宇髄さんは家を出て行く。
「おやすみなさい」
私は一言呟いて、ガラリと閉まった戸を、
しばらく眺めていた。
彼と別れて、
何故だか、何かをする気にもなれず、
なすべき家事を全て放り出し、
私は湯船につかっていた。
どこを見るでもなく、
ボーッと一点を見つめて。
さっき、別れた時の様子がおかしかった。
急に、おじちゃんたちに挨拶に行くと言い出した事も、違和感があった。
おばちゃんに、言われたと言う事もあったにはあったけれど。
でも、何だろう。
とても、急だった。
ここへ来て、すごく焦りを、感じた。
つい考え込んでしまい、
のぼせてしまう危険を感じ、ざばっとあがる。
お水を一口飲んで寝室へと向かった。
やっぱり、何をする気にもなれなくて、
そのまま布団へと倒れ込んだ。