第23章 こいびとおにいちゃんズ。の彼女
くくくっと声を押し殺すように笑った実弥さんは
珍しく私の額に唇を押し付けたりしている…
急に上機嫌だ。
「ただ、可愛かろうが可愛くなかろうが
放り出したりしてやらねえから覚悟しとけよ」
「ほんとに出て行くつもりだったんですけど…」
「許すワケねぇだろ」
「荷物もまとめたのに」
「戻しゃいい」
「また同じことを繰り返すのはイヤなんです」
「…繰り返さねェ。
お前失くすくらいなら甘えんのやめる」
「…えー…それはやだな…」
ああなるのはイヤなのに、
甘えられなくなるのもイヤだ。
「なに?」
私は実弥さんの胸元に顔をうずめた。
驚いたようにこちらを覗き込もうとするのを
思い切り避ける。
「…だってそれ、私にしかしないんですよね?」
あの時…
『私には絶対に見せない部分かなぁって』
彼女はそう言った。
他の人には見せない、特別な姿って事だもの。
私にしか見せないのよね?
例えばあんな、ひどい扱いを受けてもね、
愛情の裏返しなんていう、ややこしいことでも。
「私にしか見せない顔も、捨てがたいです」
へへ、と笑う私に、ぷっと吹き出して見せる。
その顔があんまり優しげで。
「どうしてえんだよ、お前はァ」
愛しそうに笑いながら
私を抱きしめて直した。
その強い力に安心を覚えた私は
同じように強く抱きつく。
「わからない…
私、実弥さんならなんでもいいのかなぁ?」
「調子よすぎんだろうが」
ぴたりと額を合わせられ、
優しかった目をスゥっと引き締めた。
「…ここにいるよなァ?」
「……出てく」
「まだンなこと言うのか。…強情」
ふにっと頬をつままれて
「ふふ…」
笑いを零してしまった私が
もう本心から言っていない事に気がついただろう。
その笑い声につられたように、
実弥さんが私に口づけをした。
「っ!」
息を詰める私に
「行くな」
鼻先をくっつけたまま低く言う。
「…どう、かな…」
「睦」
もう一度、口づけをされて、私は戸惑いしかない。
だってさっきのよりも
「お前がいねえと、」
熱を含んでる…
「やってけねェ」
ひと言毎に小さな口づけをされて
「実弥さん、っ」
私は彼を押しやった。