第23章 こいびとおにいちゃんズ。の彼女
「あの花、なんだか知ってるかァ?」
白色の一重咲き…
「名前は知りません」
実弥さんは私から目を逸らし、
その花を少し睨んだ。
それにつられて、私もその花に目をやる。
「…私が知らない人から、物をもらったから?」
だから怒ったの。
花から実弥さんに目を戻すと
「お前が知らねェオトコから、
そいつが選んだアノ花をもらったから」
所々を強調して言い直される。
……はて。
「どういう事ですか」
「アレの花言葉」
……
「花言葉⁉︎」
花言葉…?
実弥さんと、花言葉…
「…なんだァ。何か文句あんのか」
「いえ…。花言葉とか知ってるんですか?」
「たまたまだ」
たまたま知る花言葉…
私はひとつも知りませんけど…。
「真実の愛、だとよ」
「…真実の…」
愛。
それを聞いて私はぽかんと口を開けた。
何のことやら。
「気に食わねぇだろう?
どこのどいつだよ、人の女に
んなキザな事しやがんのは。
そいつに2度とうちの敷居跨がせんなよ」
「…えー…それこそたまたまなんじゃ…?」
「そうだとしてもだァ!気に入らねェ」
実弥さんは目を細めて
さも憎らしそうに罪なき花を睨みつける。
……。
という事はだ。
「…やきもち、?」
「だぁから、最初にそう言ったろうが」
チッと舌打ちをしてそっぽを向いた。
「それが、不機嫌の理由…?」
あんなに怒鳴り散らして…?
「…子どもじゃないんだから」
「睦があんなモン受け取るからだ」
「じゃあそうやって言って下さいよ」
それだけでこんなに愛しいのに…。
「だから、気持ちの裏返しだって言ってんだろ」
「しょうがないなぁ…」
私は実弥さんの背中に腕を回して
胸元に抱きついた。
「ちょっと前までこんな人じゃなかったのに」
「嫌いになったかよ?」
長い腕が私の身体に巻きついて
ぎゅっと抱きしめ返してくれる。
何を仰いますか。
嫌いになるどころか…
「もっと大好きになった」
「…ヘェ。物好きだなァ」
見上げると、ふわりと笑う実弥さん。
あぁ、折れた私の心を修復できるのは
この笑顔だけ。
「物好きは実弥さんですよ。
せっかく可愛くない女を
放り出せるチャンスだったのに」
「ほんとになァ。俺が可愛くねえんだから
睦くらい可愛くしてろや」