第23章 こいびとおにいちゃんズ。の彼女
そんな隙を見せたらいけないと思う。
でも、理屈じゃなくて…。
「優しくされたり、
そういう言葉をかけてもらえるのが当たり前とは
思いません。だけど、…」
さっきの
おもちゃの指輪を買ってもらった時のことを
頭に思い浮かべる。
「もっと楽しかったもん…。
今離れて、あの時間が取り戻せるのなら
私は迷わず出て行きます」
そうして、たまに会って
お互いのありがたみがわかるのなら
その方が断然いいに決まっている。
「睦の気持ちはわかった。
俺は今日から、お前に甘えるのをやめる」
そういいながら
背中をぎゅうっと抱きしめられた。
そこで腑に落ちないのは、
こうなった原因の、あの話の事。
「…実弥さん」
「何だ」
「あの時は、どうしてあんなに怒ったんですか?」
「…あの時?」
「実弥さんが留守の時に来た、
花売りの話をした時」
「……」
実弥さんは項垂れて、私の肩に顎を乗せた。
「…花売りは男だろう」
「そりゃあ…ものすごい量を担いでるんですよ?
女性には無理ですよ」
「玄関まで来たな」
「…はい」
「中へ入り、どれかを買えとお前に言った」
「言いました…」
…なんだろ、この状況確認みたいなの。
そりゃ、さっきはお互い血が上ってて
まともに話せなかったけど。
「でもお前がどれにするか。
そもそも買おうかどうか悩んでる途中で
その男は突然もういいと言った」
「そうです」
その割には
ものすごくちゃんと聞いてくれていたんだな。
「何故かと問うと、
今回は初めてだからお代はいいと。
好きな花をやるから、次回買ってくれと
言ったんだよなァ?」
「はい…」
「お前は断ったのに、
それでもしつこく食い下がって来て
結局一輪もらった、それが、あの花だ」
実弥さんが指差した先に、
一輪挿しに飾った花。
「はい…」
「しかもあれはお前が選んだワケじゃねェ。
その花売りがお前の為に選んだんだ」
「……はい」
その通りだ。
そんなに細かく聞いてくれていたのか。
庭木の手入れの片手間に
うんうん頷いていただけだと思っていたのに。
「睦よォ、」
「はい?」
私は肩を抱かれたまま、
実弥さんを見上げた。
怒っては、いないみたい…