第23章 こいびとおにいちゃんズ。の彼女
名前を叫ばれたのとほぼ同時に
掴まれた肩をぐいっと返され
くるりと反転させられた。
目が覚めたかのような、真剣な眼差し。
焦燥と、後悔。
「俺のこと試してんのか‼︎ここを出て
どこへ行くってんだよ!」
「……」
確かに行く宛てなんかない。
私には両親がないし、身寄りもいない。
「オイ‼︎」
「…っもう‼︎怒鳴らないで‼︎
そんな実弥さん大っ嫌い‼︎」
「っ⁉︎」
肩に置かれていた手が離れて行った。
「どこへ行こうが私の勝手です。
実弥さんが気にする事じゃありませんよね」
「…気にするに決まってるだろ」
「どうして?関係ありません」
「関係ある。お前は俺の恋人だろ?」
「恋人?散々な態度を取っておいて
恋人気取りですか?」
あぁ、ひどい言葉しか出てこない…
ちゃんと向き合えば、
戻れるかもしれないのに。
「だから悪かった。
怒鳴るのやめるからちゃんと話そう」
そのひと言に、
私は頭の中でぷつんと
何かが切れた音を聞いた。
「ちゃんと話そう…?今更?
私がこうなったから?
出て行くなんて言ったから?」
「睦」
困ったように頭を掻く実弥さん。
でも、あまりにひどくはないだろうか。
「私がどれだけ、ちゃんと話してって
お願いしても、まったく聞き入れなかったくせに
自分は簡単にそんな事を言うんですね」
「さっきのは…悪かったって。
正気じゃなかった。悪かった」
「もうやめて下さい。もういいので」
「睦」
「私がいるのが当たり前になりすぎたんですよ。
きっと長く一緒に居すぎたんです。
実弥さんは、短気だったけど
ほんとは優しくて心の大きな人だったのに」
「睦…!」
再び、和箪笥の中の物を
風呂敷の上に投げる私の手を止めようとする。
そんな実弥さんの手を振り払って
「私がそばにいたせいで
優しい実弥さんがどっかへ行っちゃった」
私はどんどん荷物を放った。
悲しくて悲しくて悲しくて悲しい。
何が?
実弥さんが変わってしまった事?
それとも、出て行く事…?
いつしか流れていた涙。
拭くつもりもない。
頬を伝い、顎から落ちて行くそれに
実弥さんも気が付いたらしく、
「なァ…頼むから聞いてくれ」
命令ではなく、お願いをしてきた。