第22章 お兄ちゃんのお見舞い
努めて笑顔を作ったはいいけれど…
宇髄さんも不死川さんも鋭いから
気づかれていたかもしれないな。
「そろそろ帰るわァ」
不死川さんがそう言い出したのは
時計の針が9時を回った頃だった。
なんだかんだで
宇髄さんに引き止められていたけれど
とうとう腰を上げた。
「まだ早ぇのに」
と、まだ引き止めたい宇髄さんを振り払い
不死川さんは縁側へと向かった。
結局あのまま縁側から部屋へと招き入れたので
2人の草履は縁側の沓脱石の上だ。
「遅くまで引き止めてしまってごめんなさい」
私が後を追いながら言うと
顔だけ振り返った不死川さんは
「……あいつの嫁にでも
なったみてぇな言い草だなァ」
呆れたように言った。
「……え、」
驚いて見上げると、
ニヤァっと口の端を引き上げた。
「そっそんなんじゃありません!
からかわないで下さいよ!」
やだやだ、
そんな口ぶりだった?
ただ遅くまで引き止めて
申し訳なく思っただけなのに…!
…私が引き止めたわけじゃないのに
代わって謝ったりしたから?
いやいや、やめてくれ。
恥ずかしいから。
私の混乱を収めるように
大きな手が私の肩に優しく触れた。
その仕草が、私の体を労るような気がして。
まだ残る傷を、気遣ってくれたように感じて
私は込み上げるものをグッと堪える。
「…わざわざ来てくださって
ありがとうございました。
とっても嬉しかったです」
「…あァ。もっと早くに来てやりたかったがな…」
もっと早くに…。
でも、そうしなかった。
そこには不死川さんなりの優しさがある。
痛いほど伝わるこの人の気持ちがひどく嬉しい。
私はなんて、幸せ者なのだろう。
「いいえ!…充分幸せです」
草履に足を通した不死川さんが
ちらりとこちらを一瞥する。
目が合うと、にこっと笑って
やっぱり頭を撫でてくれた。
傷だらけになった、優しい手。
たくさんの人を守ってきた大きな手。
そのせいで、大きな代償を負ったんだね。
私はその手を取って、
自分の胸に抱きしめた。
「オイ睦…」
最初こそ驚いていた不死川さんも、
うっすら溜まった私の涙に気がついて
そのまま、好きなようにさせてくれる。