第21章 スルタンコラボ企画 〜睡蓮の昼寝〜
しまった、見つかった。
おそるおそる振り向くと
美しく長い黒髪を一つで束ねた
美人さんがそこに立っていた。
すらりとしているのに出るとこ出てて、
紅く染めた目元と唇が印象的な女性。
絹糸のような黒髪を風に遊ばせた美女が
こちらを向いて立っていた。
一目でわかった。
3人のお嫁さんのうちの1人なのだと。
「あなた、もしかして…」
にこりと微笑まれたが、
「大変失礼致しました。
素敵な装飾に誘われ迷い込んでしまいました。
お許しください」
腰を落とし頭を下げて、そのまま後退りする私。
「待って?いいのよ、
ここはみんなで遊ぶ場所なのだから」
…みんなで、遊ぶ?
なんだか可愛い言い回しだ。
「やっとお部屋から出てきたのね。
お会いしたかったわ。
天元様の4人目の方でしょう?」
「違います」
あ…。
咄嗟に否定してしまった。
…いや、でもほんとに違うわ。
「え……?違う…?」
戸惑う美女には申し訳ないが
「はい。ですから私にはこちらで
遊ばせて戴く資格はございません。
申し訳ございませんでした」
はっ。
でもここに居る限り
挨拶をしない理由にはならないか。
「大変遅ればせながら、私アイシャ…
睦と申します。
ご挨拶にも伺えなかった失礼をお許しください」
呆気にとられている美女を
出来るだけ見ないようにして
私はその場を去った。
あぁああ、部屋から出るもんじゃないな。
それにしても綺麗なヒトだったな。
どこかの国のお姫様かなぁ?
さすがは王子サマの夫人だわ。
あんな美しい人がいながら、
なんで私は抱えられたのかしら。
必要ないように思えて仕方ない。
バカにされてるような気がしてきて
…腹が立つのと同時に、
悲しく、なって来た。
私は惜しみなく注がれる陽光の中、
俯き立ち止まってしまった。
この庭と同じ。
出口の見つからない迷路に迷い込んだように、
私の心は闇の中へと沈み込んで行った。
「おいしーい!」
私のいい所は、
美味しいものを食べると
すぐに浮上する所だと思う。
さっきまでの闇はどこへやら。
でもこれは、
一時の気休めだという事もわかっている。
1人の時間が訪れると
また闇に飲まれるのだ。
だが、そうなるまでの時間は
めいっぱい楽しむのだ。