第21章 スルタンコラボ企画 〜睡蓮の昼寝〜
「花に罪はありません」
「…どういうイミだ」
もの凄く気分を害したような口ぶり。
「どうだと思われます?」
お前からの贈り物だからじゃない。
どのような扱いを受けようと、
花の生命を粗末には出来ないのだ。
「…お前は、他とは違うな」
…この男の言動は本当、
私の神経を逆撫でするような事ばかりだ。
だからと言って、
それをぶちまけるのも悔しくて
至って平静を装う。
「それにしても…
この花はこんなに強い香りがしたかしら。
甘いけれど、もっと爽やかで
上品な香りだったはずなのに…」
形を整え、花が揺れる度に、
顔を背けたくなる程の強い香りが私を包んだ。
少し顔をしかめる私を見て、
何かに気づいたようにハッとして、
もたれかけさせていた体を起こした。
「待てアイシャ、嗅ぐな!」
大きな体とは思えないほど俊敏な動きで
私の元まで来た王子は、
これまた大きな手で、私の鼻と口を塞いだ。
「ぐ…っん!」
もの凄い力で押さえつけられ、
私は驚きと同時に恐怖を覚えた。
この歴然とした力の差…
男に敵うとは思っていなかったけれど、
まさかここまでとは…。
息が出来ない事に焦った私はパニックを起こし
大いに暴れた。
「…つッ!わかったから、落ち着けアイシャ!」
苦しくて、その手を離してほしくて
私はきっと、
王子の手を何度も引っ掻いたに違いない。
私を宥める声などまるで聞こえず、
暴れ続ける体を抱きこんで
「おい睦!」
顔を突き合わせ、
視界いっぱいに、にっくき男の顔。
…それなのに。
口と鼻を押さえていた手が離れ、
私の両腕をつかんだ途端に
今まで詰まらせていた分、
大きく息を吸い込み…。
その途端、私の肺いっぱいに空気が送り込まれ
同時に目が眩む程のあの花の香り。
目の前にある王子の整った顔が
歪むくらいの眩暈が私を襲った。
その瞬間、心臓が大きく音を立てた。
全身の血がざわめき出して
どこか危険を感じた私は、
男の手から逃れようと体を引いた。
しかし膝からかくんと力が抜け、
その場にくずおれそうになってしまう。
力を入れて体制を整えようとするけれど
それも叶わず、ふらふらと酔っ払いのように
体を揺らしてしまった。