第21章 スルタンコラボ企画 〜睡蓮の昼寝〜
アイシャというのは偽名。
面倒なことに巻き込まれない為の
仮の名前。
普段は本名を隠し偽名を名乗っている。
そんな事も知らずに、
この男は私をこの後宮へと連れ込んだ。
…囲うために。
無反応の私の隣に、膝を折る王子。
「耳、あるか?…何かお前、
あの日踊ってた時とは別人のようだな」
目も合わせようとしない私に
大きなため息をついた。
『あの日』とは、
私が初めてこの国を訪れた日のことだ。
家を持たず、いろんな土地を渡り歩いていた私。
仲間と共にずっとそうしてきたというのに、
まさに『あの日』、この暴君のおかげで
気ままで楽しかった生活が絶たれてしまった。
「あの時のお前は、
美しく、光り輝いていたというのに…」
残念そうな目で憐れむように一瞥される。
そう、そんな身勝手な理由で
私は攫われるように
こんなつまらない場所へ幽閉されたのだ。
「はい。私のように卑しい身分の者は
貴方様に相応しくありません」
「なに…?」
「貴方様は、すでに3人の女性を
囲っていらっしゃるではありませんか。
私など必要ないのでは…?」
睨みつけながらそんな言葉を口にしてから、
あぁ、ここでにこっと微笑みでもすれば
或いは『うん』と
頷いてもらえたかもしれないのに…。
しくった。
「いや、俺はお前が気に入っている。
お前しかいないとさえ思っている」
…そんなわけないだろう。
なんだこの男は。
なら先の女性3人を切ってみろ。
そうしてから今の台詞を言うのなら
多少は信じてやってもいい。
心にも無い事を平然と口にするこの男を
信用する材料など何一つありはしない。
…やっぱり無理矢理にでも
微笑んでおくべきだった。
そんな事を考えながら、
私は思い切り肩を落とした。
「あのお前の舞いの美しさ。
あのイキイキとした笑顔。
あの時交わした言葉を覚えているか」
やや興奮気味の男は
私に花束を差し出した。
近くで嗅ぐと、
息を詰まらせてしまいそうな程の強い香り。
つい顔を背ける私に
「花は嫌いか。この花は……お前のために」
…気になる間があった。
本当に私のためだったのか疑わしい。
…
「この花の名をご存知ですか?」
「…いや」
「卑しい身分とは言え、私も女です。
その女に贈る物の名も知らぬとは、
いくら王子様でも失礼です」