第20章 旱天慈雨
でもそんな事を言うのが
照れくさい。
わざわざ口になんて出来ない…
いや、する必要ない。
だから
「いいの、何でもない」
顔を背けてしまった。
それが大いに気にくわない天元は
「よくねぇ。こら、こっち向け
ちゃんと話せ」
私の顔を掴みぐいっと元の位置に固定した。
目が合ってしまうと
照れくささが増して余計にだめだ。
「うん…いいの。ありがと」
「そんなんで俺がごまかされるか。
なんだって?私は、もうだめかも?
何がどうだめだったのか言ってみな」
「いいんだってば!流してよぅ」
「絶対ぇやだね。言うまでこうしてやる」
『こう』とは『どう』なのだろうと
考える暇もなく唇を奪われる。
「…っ⁉︎」
無理無理無理無理…‼︎
あまりに突然で、
特に甘い雰囲気でもなかったのに
こんな事をされて混乱する私をよそに
彼といえばひどく落ち着いた様子で、
それなのに頭を溶かすような口づけは…
「…わか、ったから!」
簡単に私を降参させてしまう。
はぁ、とひとつ、深く息をはき
彼の未だ真剣な目を見つめた。
引く気はまったくなさそうだ。
…諦めよう。
「もうだめっていうのは、
私が『だめ』なんじゃなくて
何が起きても天元がいてくれたら
それだけで全部解決されちゃって、
あなたがいないと『だめ』ってことです」
なんで、…。
「なんでこんなこと言わされるの!」
恥ずかしいなぁ!
照れ隠しに、思わず憤慨する私を前に、
「…あぁ…そりゃ、悪かったなぁ…」
完全に呆けている彼。
…思っていたのと違ったことで
頭がついて来ないように見えた。
それにしたって、
この人によって私の憂鬱は払拭されて
まだ余韻はあるものの
もう大丈夫なような気がしていた。
ウソを、ついた。
多分初めて。
睦に、ウソをついた。
墓までもっていくレベルの。
嘘は無し、隠し事も無し。
そう睦に誓わせた手前、
俺もそれに努めていた。
それなのにだ。
でも、必要なウソだった。
睦の心のためには。
雛鶴たちの報告。
あれはかなり危険だった。
俺もショックだった。
あの女の血縁者がいたという事実。
睦には話せないと思った。