第20章 旱天慈雨
あんな、…
睦の心を掻き乱すような出来事を
忘れさせたい。
失くす事はできなくても、
…あんなこともあったなって笑えるような
『思い出』に変えさせたい。
そんなひどい過去に
いつまでも囚われてちゃ、
その度に振り出しだ。
そんなの、もう堪らねぇんだよ。
「…ありがと」
睦は小さく笑ってみせる。
そんな顔ができるようになって
よかったと心から思う。
「…お前が泣いてると、
俺も泣きたくなる」
ぽんっと髪を撫でる。
眉を下げる睦。
「…なんて、…いつも俺が泣かすのになぁ…?」
くくっと自嘲する俺に
ぎゅうっと抱きつく睦。
ひどく物憂げだ。
「…天元に泣かされるならいいもん」
「それ前も言ったな」
「言った。だって、ほんとだよ?」
「あぁ、わかってるよ」
わかってる。
だから泣かせたくねぇのにな。
「これでもね、前を向いてるの…」
「んー…そっか」
「努力してるつもりなの」
「…俺の前ではいい。
ムリしてフツーのフリなんかしなくていい」
「うん…。でも今はムリしてないよ?
だって、大丈夫だって言ってくれたでしょ?
何も近づけさせないって」
しがみつく睦は顔を上げ
少し不安そうに瞳を揺らす。
「言ったなぁ。当然の事だ」
「あんなおかしな私を
真っ正面から受け止めてくれるの、
天元しかいないと思うんだ」
「…ヘェ」
「だから、もし次におかしな事になった時は
『ムリしてフツーのフリ』はしないから。
その代わりびっくりしないでね」
泣きそうな目で、
ふわりと笑われるとひどく切なくなって、
いつまでも慰めてやりたくなる。
「お前が何したって、
びっくりなんかしやしねぇよ」
そうっと唇を寄せて、止まった。
……。
昨夜、…ぶっ通しだったしな。
疲れさせる為とは言え、
むちゃくちゃしたし
それを考えるとちょっと考えてしまう…
「睦…」
どうしたものか悩んでいるのが
真っ直ぐに伝わってしまったのだろう。
くすりと笑った睦は
「…ちゅってして?」
甘えた声を出す。
「そんな事したら…」
「止まれねぇ、…でしょう?」
俺の口調を真似て
睦が続きを奪った。