第20章 旱天慈雨
…こうも安心し切られると
手を出す気も失せる。
「睦、そろそろ起きろよ…」
小せぇくせに…。
こんなに、穏やかにしてるのが
まるで奇跡のように
今お前は眠っているが…
なぁ、…今目覚めたらどうなる?
「朝、ですよー…」
俺はお前を、ちゃんと慰めてやれたろうか。
「ん…、あい…」
可愛い返事をして
目をこする。
その手を掴んで
「睦、」
止めさせた。
その手を振り解こうとぶんぶん振り回し
「んー」
睦は眉間の皺を深める。
寝起きもまるでガキだ。
まだ目を擦ろうとしているのだろうが
「擦んなって」
俺はお前の玉の肌に
傷がつくのヤなんだよ。
「はなしてー…」
しかしそんな事を気にもしてねぇ睦は
まだ手を振り回している。
「お前自分に頓着なさすぎだろ。
目ェ擦った後、
いっつも目の周り真っ赤になってんだぞ。
気ィつけろよ」
「えぇー…?」
…寝ぼけてる。
俺の言葉なんてまったく頭に入ってねぇ。
「きれいな肌がぁ!
台無しになんだろうがぁ!」
大声で言ってやると
ふわあっと目を見開いて、
「台無し…?」
ぽかんと俺を見上げた。
「そ…。お前、肌弱ぇんだから
大事にしろよ…」
目尻に口づけを落とす。
「…うん…」
俺の言った事を、
あんまり上手く飲み込めていないような
呆けた返事。
さっきまでの、寝ぼけていたのとは違う、
俺の言葉に驚いていると言った方が
正しい反応。
「わかってんのかよ…」
「…ヘンなの」
ぽつりと言って、ふと笑う。
「どこがだ」
「だって、私のハダなんて
どうでもいいでしょう?」
はっきりとした口調。
…覚醒したようだ。
「睦に関する事で
ドウデモイイなんてあるワケねぇだろうが。
お前の肌、これなぁ…」
言いながら睦の頬に触れる。
だってほら、この手触りよ。
「俺はなぁ
この吸い付く心地がお気に入りなの。
せっかくきれいなんだから手入れしろよ?」
「……」
ぽぽぽっと頬を染める睦。
「…なに可愛くしてんだよ」
「そ、そんなこと言われると思ってなくて…」
心の準備が、とかなんとか、
もごもご言っている睦を引き寄せた。