第20章 旱天慈雨
まぁ、何にせよもういるのだから、
使わない手はない。
「コイツのそばにいてやってくれねぇか」
「……」
黙り込む、襖の向こう。
…なんだか埒があかねぇ気がして
「入れ」
招いてみる。
スッと音もなく引かれた襖。
現れたのは真ん中に雛鶴
両脇にまきをと須磨。
3人は
俺の隣にくったりと横たわる睦をみつけ
見てもいいものか悩んだように目を泳がせた。
……3人に対して背を向けているため、
豊満な胸は見られずに済んだが、
その代わり丸出しの背中の
無数の鬱血痕はばっちり見られ…。
そりゃ、目のやり場に困るよな。
俺はその背中を
何とは無しを装って掛布で隠す…。
「…こいつ」
さっきのが聞こえていたかと
もう一度声をかけた。
色の残る、この部屋の空気を一掃するような
涼やかな風が、空いた襖から流れ込む。
「私たちが動きます」
「さっきの睦さんの様子を見たら…
天元様がおそばにいてあげるべきです」
帰って来た時の憔悴ぶりを
思い出しているのだろう。
…あれは目も当てられなかったよな。
「…天元様に、そこまでして頂かないと
眠れないんですよね…?」
「…そう、かもな」
言葉を濁す俺に3人は向き直り
「ご指示を」
真面目な顔で言った。
えー…事の顛末を話すのが手間なんだが…。
こいつの過去を、無許可で曝すワケにももいかず。
「お前らがいてやった方が…」
「「「だめです」」」
揃って静かに否定され
俺は言葉も出ない…。
「なんだよ、
こんな時ばっかり結託しやがって…」
苦笑いするしかなくなった俺は
ひとつ小さなため息をついた。
睦のためにしてくれていると思うと
3人の気持ちを無下にも出来ず、
俺は事情の説明を始めた。
「睦ちゃーん…」
すでに日は高く、そろそろ目覚めてもいい頃だ。
なので驚かさない程度の声で
さっきから呼びかけてはいるのだが
まったくの無反応。
心地よさそうに寝息を立てている姿を見ると
このまま寝かせといてやりたいと思う…。
「…おーい」
少しだけ眉を寄せ寝返りを打つ。
昨夜のうちに整えてやった襦袢の襟元が
少しだけ縒れて、鎖骨がのぞいた。