第20章 旱天慈雨
「…それは、忘れさせてくれと
俺に言ってんのか?」
どくっと、睦の鼓動が伝わって来た。
「そ、んな…」
少し戸惑ったような口ぶり。
「試して、やろうか…?」
「え…」
きっとそんなつもりで言った台詞じゃないんだろう。
だが、忘れられんのなら
どんな手段でも構わないはず。
俺からの甘い責め苦であれば
嫌なこともないだろうから…
「あ、…っ、」
唇を合わせると
一瞬驚いて、でもスッと寄り添ってきて
あぁ、ほんとにこんな手段でも
許されるんだなぁと、頭の片隅で考えていた。
急くように俺の着物に手を滑り込ませ
ちょっと焦っているようにも見える睦。
「…こんなやり方で、ほんとにいいのか?」
何となく、間違ってるような気がして
唇が触れ合う距離で訊いてみる。
いや、仕掛けたのは俺だけど。
でもこいつがこんなにすんなりと許すとは
思っていなかったんだ。
「……」
訊かれた睦も
ふと疑問に思ったのか
俺の目を見たまま停止した。
「忘れたいけど…抱いてほしい、から…
許してくれる…?」
息と共に吹き付けられる言葉が
あまりにも愛しくて眩暈さえしてくる。
「あらら…相変わらず可愛いのね睦ちゃんは」
まさかこいつにそんな事を
言われる日が来ようとは…。
嬉しい通り越して驚きだ。
同じことを考えていた事を含め。
身体を繋げるのは、
嫌な事を忘れる手段ではなくて、
愛を伝え合う行為にしたい。
幸せでありたい。
でも、抱いてほしいとか可愛く言われたら
もう我慢はききません。
そして遠慮もいりません…?
「そんな可愛いこと言われると
手放したくなくなっちまうけど、
それでいいのかよ?」
「好都合、…って言ったら怒る?」
「好都合…」
なんと。
「うん…ごめんなさい。でも、
愛してもらって、それで
嫌な事も忘れられるのなら…
幸せかなって…」
そんな事を言うなんて、
よっぽど落ちてる証拠だ。
こんな時でなければ
両手放しで喜んでいる所だが、
多少心配になってしまう。
「お前にそのつもりがあるんなら俺はいい」