第20章 旱天慈雨
睦の頭を自分の胸に押し付けた。
「例えば、お前の言う『今』、
俺はお前の隣にいるな?」
「…うん」
「それでお前は救われるか?」
「うん」
大きく頷かれ、ホッと息をつく。
それなら話は早いのだ。
「睦の隣にいる限り、
俺はお前を守る。全力で。
そう約束したよな?」
「…ん」
声が震えていく。
よくこんだけ涙が出るモンだ。
「物理的にもそうだが、心も守りてぇの俺は。
悲しみも痛みも苦しみも
全部お前から遠ざけてやりてぇの。
何ならその辺を飛んでる虫からも」
「…へぇ?虫…?」
呆けた声を上げ、ついでに目線も上げて
俺を見つめた睦の目が
ぱちくりと見開かれた。
「そ。何からでも守ってやるってハナシ」
言いながら、再び睦の視界を胸で覆う。
可愛い目でこちらを見られたら
話どころではなくなるのは俺の方。
さっきから可愛いだけの睦に
手を出したくて仕方がないのだから。
「んで、次は心の話だ」
「こころ…」
「そう。お前の真ん中にいるのが俺だとして、
そこからいろんな人間が繋がっていくだろう?
弥彦さんと志乃さん、甘露寺と、
あとは煉獄に不死川、雛鶴にまきをに須磨、
ガキの頃に遊んだナントカって兄ちゃんもいたなぁ。
それから名も知らねぇ、
睦の小物に魅入られた店の客たちも」
俺の言いたいことがわかったのか、
口元に手を添えて嗚咽を堪える。
「みんな、睦の事が好きだろう。
憎むヤツなんて1人もいねぇ。
お前は、愛されるべき人間だ」
振り出しに戻ろうが、
俺は懲りずに1から植え付ける。
お前への愛を。
睦の為なら
果てしなく繰り返せる自信がある。
「ガキの頃のツラい記憶は
消すに消せねぇよな。
でも俺がここにいれば大丈夫なんだよな?
違うかよ」
睦は額を俺に擦り付けた。
「違わない…。
天元がいてくれたらそれだけでいい。
だけど今は、胸のモヤモヤが消えないの。
でもそれは私の気持ちの問題だから。
絶対に、天元のせいじゃないからね」
「泣きながらそんなこと言うなよ…」
「泣いてない」
「はいはい…」
出たな、強がりめ。