第20章 旱天慈雨
さっき睦が言った、
『今』の続きは、何だったんだろうな…。
「睦。…俺が、してやれる事は?」
「……」
泣き腫らした目、
白く透けてしまいそうな肌、
憂いが滲み出ている表情。
「今、俺にしてやれる事はねぇの?」
頬に手を当てて、そっと覗き込む。
きれいな目に溜まっていく涙を見て、
何故だろう、
つい、笑ってしまった。
困ったヤツだな。
「子どもの…」
睦は掠れた声で、ようやく口を開く。
それが嬉しくて、
俺はいつものように
艶のある髪を何度も撫でてやった。
「子どもの時から…なんていらない…
今で、充分だよ…」
言いながら心地良さそうに目を閉じる。
なんだかその様子が、
いつもの睦に見えた気がした。
拙い話し方はさておき、
急激に愛しさが募っていく。
「んー…?」
「ごめんね…。昔の事ばっかり…。
私、ちゃんとね、幸せにしてもらってるよ」
「んー…」
睦が力を込めて縋ってくる時は、
俺にわかってもらいたい時。
ちゃんと、伝わってるよ。
「突然で…怖かった…」
「あぁ、そうだな。ツラかったな」
「うん…もう、忘れたはずだったの…
天元の、おかげで…」
「そうか。苦しかったろ」
「もう…自分が、…」
睦の心に俺が寄り添った事で
溜まりに溜まった胸の内が
次々に吐露される。
全部吐き出せばいい。
ただ、その最後の言葉の続きだけはだめだ。
「…やめとけ。お前は悪くねぇ。
自分を貶めるのだけはやめろよ…?」
自分が嫌だと、そう言うつもりだっただろう。
でもそんなこと言わせてやらねぇ。
「俺は、どんな睦でも
愛してるって言ったはずだ。
俺がそばにいてやるから、…
お前はそのままでいい。
そのままがいいんだよ」
幾度となく繰り返して来た告白。
伝えたつもりでも、…
ちゃんと伝わっていたとしても、
ほんの小さなきっかけですぐに振り出しだ。
なぁ睦、厄介だよなぁ…?
でも、俺は必ず取り戻す。
俺だけが、お前をわかってやれるから。
「睦、そのまま、聞いてくれるか」