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【鬼滅の刃】予定調和【宇髄天元】

第20章 旱天慈雨





おろおろと睦の行った方向を
目で追っていた女中の手から
包みを受け取り、
その手にお代をぽんと乗せる。

「ありがとよ。釣りはとっといてくれ」

それだけ告げると
俺は睦を追うべく
足速に店を後にした。



外に出ても喧騒はやまない。
俺は左から右へ、大きく視線を巡らせて
睦の行方を窺った。

あいつは無駄に足が速ぇ。
だからといって、
睦を見つけられない俺じゃない。

目の前の大通りを渡りきり
四方へ伸びる細い道の一本…
その先の
木の根元にへたり込んでいる睦を見つけた。

久しぶりに見るあんな姿。
痛くてしょうがねぇ。

睦…今、行くからな…。














息が、うまく継げない。
吸ってるはずなのに、ひどく苦しくて、
また吸い込んで…。
そのうち頭がくらくらしてくる。

だめだ。
この息の仕方は、いつもの苦しくなるやつ。
彼がいてくれないと…
側にいて、呼吸の誘導をしてもらわないと
だめなんだ。

ひどい眩暈に襲われて
傍に立っていた木の根元に座り込んでしまう。

そこでやっと気がついた、…
私ひとりだという事に。
あまりの出来事に、もう
何をしているのかわからなくなっていたのだ。

あの空間から、逃げ切ることが出来た。
追ってくる気配はない。
逃げ切れた…。
逃げ切ったのだ。

安心した途端、
ものすごい吐き気が私を襲った。
加えてひどい頭痛。
誰かに強く揺さぶられているのかと思う程
ぐゎんぐゎんと世界が回っていた。
更に呼吸困難…

視界が、じわじわと遮られて行く…
ツラくて…怖くて、…。
涙が出ている事にもすぐに気づけなかった。

「あぁあー…ぅう、う、ぅ…」

地べたにうずくまりながら
言葉も紡げず、ただ呻くだけ。
もうだめだと思ったその時。

私を抱きすくめてくれる力強い腕があった。

「睦‼︎」

胸に押し当てられた耳から、
だいすきな声が響いてくる。
救われた…ただそう思った。

あぁ、もっと強く抱きしめてほしい。
そう言いたいのに、
言葉なんか忘れてしまったかのように

「あぁあ、うぅ…うぅぅー…」

そんな呻き声しか出せなかった。
勝手に流れる涙が、
彼の着物に吸い込まれて行く。




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