第20章 旱天慈雨
「……よくもまぁそんなコト毎日言えますね」
呆れた睦の前に
いそべが2つ乗った皿が置かれた。
「お待たせ致しました!」
睦よりも少し歳が上だろうか。
元気のいい女中がにこやかに言う。
「あら、お姉さん器量がいいねえ。
粋なお兄さんも一緒で羨ましいわぁ」
「え…?あ、ありがと、ございます…」
突然話しかけられて
睦は呆気に取られていた。
おろおろとしている姿を見て、
「あらあら、おぼこいねえ。
お兄さんも大変だ」
手をひらひらさせながら
俺に向かって笑いかける。
「いや、そこがこいつのイイトコなんだ。
気に入ってんの。可愛いだろ?」
俺も負けじと笑みを作ると
「やだ、当てられちゃったわ」
あははと大きな声で笑った女中は、
厨房からかかった声に答えて
「ごゆっくりー!」
颯爽と去って行った。
「すごく活気のあるお店ですね…」
睦が驚くのも無理はなかった。
騒がしい店内はほぼ満席、
行き交う女中の数もまぁ多い。
そして全てに共通するのは
お喋りで元気がいい所。
客に品を出す際に、必ず会話をしていく。
店の決まりなのか
単に世間話好きなのか…
「みなさん、
楽しそうに働いていらっしゃいますね。
いいお店です」
きょろきょろと辺りを見渡している睦。
「そうだな。元気はあるな」
ちょっと騒がしすぎて
落ち着かねぇくらいだ。
俺としてはもう少しだけ静かなのが好ましい。
「こんな所で働くのも楽しいかもしれない」
ふふっと笑い、
いそべをひと口かじったその時。
店内を見回していた睦の目が
ある一点に釘付けになった。
「…知り合いでもいたか?」
睦の視線の先を追うが、
人がたくさんい過ぎていてよくわからねぇ…
ただ移動していると言うことは
座っている客ではなく
動き回っている女中の方か…?
俺の問いかけも耳に入らない様子で
明らかに青ざめていく睦。
「おい、」
どうした?
そう口を開いた所へ
隣のテーブルにひとりの女中がやってきた。
「お待たせ致しました!
いつものあんみつですね」
テーブルについているのは年配の2人連れ。
女中は40前半くらいか。