第20章 旱天慈雨
「…ッ⁉︎」
ぼかんと爆発的に赤面した睦は
この場で硬直してしまった。
あぁ、やべえ。
やりすぎたか。
だってそんな、香り袋なんかで
ごまかさなくちゃいけねぇわけじゃねぇはず。
睦からは常に、
甘くていい香りがするってのに。
「んー、でも睦がどうしても
その香りが好きで欲しいってんなら買ってやるぞ?
俺は好かねぇがなぁ」
「こっここがどこだかわかってるんですか?
違うのにするから、離れて下さい」
俺の胸元をとんっと押して
俯き恥じらう姿がたまらない。
まぁ確かに、周りからの視線は痛ぇ。
…それが睦を離す理由にはならないが
こいつが嫌がってんなら離してやるか。
そう思い直した俺は商品棚から手を離し、
閉じ込めていた睦を解放した。
ホッと盛大にため息をついた睦は
手にしていた香り袋を棚へと戻した。
「あ、それ、睦が欲しいなら
全然いいんだぞ?」
「いえ、違うのにします」
振り返って穏やかに笑いながら、
「もっといい物があるかもしれないし」
やんわりと言った。
…あぁ、やっちまったかな。
「欲しかったんだろ?」
「んー…はい。でも、
天元が好きじゃない物を買ってもらっても
あんまりいい気分じゃないし、
…あ、あんなコト言われて
違う香りを纏うのもイヤっていうか…」
頬を染めて小さくなっていく睦が
あまりにも可愛くて
場所なんか弁えずに抱きしめて
口づけでもしてやりたい気持ちになる。
「お前、可愛いのも大概にしねぇと
我慢がきかなくなるぞ」
そう窘めると、
「……我慢、してるの?それで…?」
きょとんとした。
なんだとー!
「めちゃくちゃしててコレだ。
わかってんだろうなぁ?」
我慢しなくなったらどうなるか。
人目なんか気にせず
してぇコトをしまくるぞ。
そう瞳に込めて軽く睨むと
それがうまく伝わったようで
「わ、わ…わかりましたから!
向こうを見て来ます!」
怯えたような目をして
睦は装飾品の並ぶ棚の方へ
そそくさと逃げて行った。
自分が可愛いコトと
俺に愛されている自覚があまり無いのが
玉に瑕だ…。